第9話 理由を知りたい
第9話 理由を知りたい
最近のひよりは、陽と話すときだけ少し明るくなっていた。
講義のあと、陽が声をかける。
「小鳥遊さん、今日も部活?」
「うん。今日は読み合わせ」
「また木の役?」
「……違うよ。今日は“風”」
「風!? 木より難しくない!?」
「ふふ……そうかも」
ひよりが笑うと、
陽の胸の奥がまたざわついた。
(……やっぱり似てる)
夕方の光の中で笑うひより。
その姿が、
陽の記憶の中の“ひよりちゃん”と重なっていく。
(でも……なんでこんなに変わったんだろ)
陽はその疑問を、
もう無視できなくなっていた。
図書館での小さな異変
夕方の図書館。
ひよりが台本を抱えて席に座ると、
陽が隣の席にいた。
「あ、小鳥遊さん。今日も台本?」
「うん。明日、発表があって……」
ひよりは少し緊張したように台本を握りしめた。
「緊張してる?」
「……ちょっとだけ」
「大丈夫だよ。小鳥遊さん、読み合わせのときすごく上手かったし」
「……見てたの?」
「たまたま通りかかっただけ」
ひよりは驚いたように目を丸くした。
「……恥ずかしい」
「なんで?すごく良かったよ」
ひよりは照れたように笑った。
その笑顔は、また“ひよりちゃん”に重なった。
(……やっぱり)
陽の胸が強く揺れた。
ひより視点(隠しているもの)
(はるくん……どうしてそんな顔するの)
ひよりは胸がざわついた。
(気づいた……?)
(いや、気づくはずない)
でも、陽の視線は
“懐かしさ”と“探るような優しさ”が混ざっていた。
(……怖い)
(でも……嬉しい)
ひよりは自分の心が揺れているのを感じた。
陽視点(知りたい気持ち)
図書館を出たあと、
陽は一人で歩きながら考えていた。
(小鳥遊ひより……)
(名前も苗字も同じで、笑い方も似てて……)
(でも、昔のひよりちゃんはもっと明るかった)
(今の小鳥遊さんは……なんでこんなに静かなんだろ)
陽は胸の奥に引っかかるものを感じていた。
(もし……何かあったなら)
(知りたい)
その気持ちは、
ただの好奇心じゃなかった。
(助けたい……とかじゃなくて)
(ただ……理由を知りたい)
陽は自分でも驚くほど真剣だった。
ひよりの“影”
その夜。
ひよりは自分の部屋で台本を開きながら、
陽の言葉を思い返していた。
「小鳥遊さん、すごく良かったよ」
(……そんなこと言われたの、初めて)
胸が温かくなる。
でも同時に、
胸の奥に沈んでいる“あの日の記憶”が疼いた。
(……似合ってないよ)
(変じゃね?)
(赤くなってるし)
ひよりはそっと目を閉じた。
(はるくんには……知られたくない)
(あの頃の私を……知られたくない)
でも、
陽と話すと笑ってしまう。
(どうしたらいいの……)
ひよりは胸の奥で揺れる気持ちを抱えたまま、
台本をぎゅっと握りしめた。




