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言葉の色が見える私には、追放された冷徹魔術師様の溺愛がダダ漏れです~黒い暴言の裏に隠された、金色の真実と甘い本音~  作者: 黒崎隼人


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第8話「真実の音晶、地下書庫に眠る希望」

 アレンさんの無実を証明したい。

 その一心で、私の頭はフル回転を始めていた。でも、一個人の、しかも辺境の司書である私に、一体何ができるだろう。ヴァルガス公爵は、今や王子の側近として絶大な権力を握っているはずだ。何の証拠もなく彼の陰謀を訴え出たところで、握り潰されるのが関の山だろう。


(証拠……。確固たる証拠があれば……)


 でも、会話なんて、言ってしまえばその場で消えてしまうものだ。数年前の、しかも王宮での密室の会話を、どうやって証明すればいいんだろう。

 私はカウンターに突っ伏して、うんうんと唸っていた。そんな私の様子を見て、アレンさんが呆れたような声をかけてくる。


「おい、何を唸っている。まるで唸るカエルだな」


 彼の言葉は黒かったけれど、その奥に心配の色が透けているのがバレバレだ。


「だって……! アレンさんの無実を証明する方法を考えてるんです! でも、何も思いつかなくて……!」


 私が悔しそうに言うと、彼はふっと息を漏らした。


「やめておけ。もう終わったことだ。それに、君を危険なことに巻き込むわけにはいかない」


 彼の言葉は、私を気遣う、優しい緑色をしていた。でも、その底には諦めの灰色がまだうっすらと残っている。


「嫌です! 諦めません!」


 私はむきになって言い返した。


「だって、真実が闇に葬られるなんて、そんなの間違ってます! 本だってそうです。どんなに古い本でも、そこに書かれた真実は、誰かが守り、伝えていかないと消えてしまう。それと一緒です!」


 私の言葉は、情熱の赤色。司書としての、私の信念そのものだった。

 私の勢いに、アレンさんは少しだけたじろいだようだった。彼はしばらく何かを考え込むように黙っていたが、やがてぽつりと言った。


「……もし、仮に、過去の会話を記録できる魔法があったとしたら、話は別だがな」


「えっ、そんな魔法があるんですか!?」


 私は身を乗り出した。


「いや、あくまで仮定の話だ。そんな都合のいい魔法、聞いたことがない」


 アレンさんはそう言って首を振った。

 過去の会話を記録する魔法……。

 その言葉が、私の頭の中で、何かに引っかかった。どこかで、聞いたことがあるような……。王都の中央図書館で司書見習いをしていた頃、膨大な蔵書整理をしながら、様々な文献を読んだ。その中に、確か……。


「……!」


 思い出した。

 私は椅子から飛び上がると、図書館の奥にある資料室に駆け込んだ。そこは、普段は使わない古い資料や、各図書館の規則集などを保管している場所だ。私は記憶を頼りに、書棚の一番奥から、埃をかぶった分厚いファイルを取り出した。

『王立アルカディア図書館・特殊収蔵品目録』

 中央図書館の、中でも特別な資料だけをまとめた目録だ。私は見習いの頃、これを丸暗記させられたことがある。

 指で頁を必死にめくっていく。あった!


「『真実の音晶しんじつのおんしょう』……」


 私は、そこに書かれていた記述を、震える声で読み上げた。


「王宮内での重要会議や儀式の際、その場で交わされた言葉の『真実』を記録する魔法具。言葉に込められた感情、すなわち真意を、色と音の波長として水晶に封じ込める……。その水晶は、王立アルカディア図書館の地下、第一特別書庫に厳重に保管されている」


 私の声を聞いて、アレンさんが信じられないという顔で隣に立っていた。


「……馬鹿な。そんなものが、実在したというのか」


「はい! きっとこれです! アレンさんと王子、そしてヴァルガス公爵が話したあの時の会話も、きっとこの『真実の音晶』に記録されているはずです!」


 私の言葉は、希望を示す、眩しいほどの虹色に輝いていた。


「もし、その水晶を手に入れることができれば……リリアナ、君のその能力で、記録された言葉の『色』を読み取ることができるんじゃないか?」


 アレンさんの声も、興奮で上ずっている。彼の言葉は、驚きと期待が入り混じった、鮮やかな青緑色をしていた。


「はい! きっとできます! 水晶に触れれば、あの時のあなたの言葉が忠誠の金色で、公爵の言葉が野心の紫色だったことを、誰の目にも明らかな形で証明できるはずです!」


 私たちは、顔を見合わせた。

 暗闇の中に差し込んだ、一本の光。それは、とても細くて、頼りない光かもしれない。でも、私たちにとっては、絶望を打ち破るための、唯一の希望だった。

 しかし、問題は山積みだ。

 王都にある王立アルカディア図書館。しかも、厳重に警備されているであろう地下の特別書庫。そこに、どうやって忍び込むのか。


「……私が昔いた頃の知識が使えるかもしれん」


 アレンさんが、険しい顔で言った。


「宮廷魔術師だった頃、図書館の警備システムの一部は、俺が設計に関わった。古い通用口や、警備魔法の抜け道も、いくつか知っている」


「本当ですか!?」


「ああ。だが、危険な賭けであることに変わりはない。万が一捕まれば、君もただでは済まない。窃盗罪、そして反逆罪の共犯として、極刑に処される可能性もある」


 アレンさんの言葉は、警告を示す、鋭い赤色だった。彼は、私のことを本気で心配してくれている。

 でも、私の決意は揺らがなかった。

 私は、彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。


「怖くありません。だって、これはアレンさん一人の問題じゃない。私の問題でもあるんですから」


「君の……?」


「はい。私は、あなたの言葉を信じています。その言葉を守るためなら、どんな危険だって乗り越えてみせます」


 私の言葉は、覚悟を決めた、静かで力強い鋼色をしていた。

 アレンさんは、しばらくの間、何も言わずに私を見つめていた。彼の瞳が、様々な感情で揺らめいている。やがて彼は、ふっと息を吐き、まるで降参だと言わんばかりに両手を軽く上げた。


「……分かった。君というやつは、本当に、頑固だな」


 その言葉は、呆れたような黒色だったけれど、その奥には、私への深い信頼を示す、暖かい金色が灯っていた。


「君がそこまで言うなら、俺も腹を括ろう。二人で、王都へ行こう。そして、真実を、取り戻すんだ」


「はい!」


 私たちは、固く、固く手を取り合った。

 彼の大きな手は、少しだけ冷たかったけれど、とても力強かった。この手があれば、どんな困難も乗り越えていける。そんな、確信にも似た思いが、私の胸に満ちていく。

 辺境の小さな図書館で始まった私たちの物語は、今、王都という大きな舞台へと、その頁を進めようとしていた。

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