第8話 最新鋭の欠陥品
高層ビル群の一角が、立入禁止テープで封鎖されていた。
瓦礫、焦げ跡、破壊された街路灯。
その中心で、スーツ姿の青年が腕を組んで立っていた。
「ふん……これが例の清掃員か」
財閥御曹司――アキラ・クロウリー。
最新鋭の対バグ兵器の開発責任者でもある。
彼は、カイの背中にある掃除機を一瞥し、鼻で笑った。
「ずいぶんと……安物だな。
それでバグを処理しているつもりか?」
「……はい」
カイは特に気にした様子もなく答えた。
「こちらを見ろ」
御曹司が指を鳴らすと、巨大な人型兵器が起動する。
光沢のある装甲、無数のセンサー、最新AI制御。
「我が社の誇る対バグ兵器だ。
清掃用具とは“格”が違う」
その瞬間だった。
兵器の装甲に、紫色のノイズが走った。
「……ん?」
次の瞬間、兵器が暴れ出す。
「な、なにをしている!?
停止コードを――」
返答はない。
兵器は街路を破壊し、ビルの壁を薙ぎ払った。
「……あーあ」
呆れた声が響く。
「ほら見なさい。
最新鋭ほど、バグに好かれるのよ」
リサ・カミシロが、腰に手を当てていた。
「……ハッキング、されてますね」
カイが呟く。
「馬鹿な! 完全防御だぞ!」
「完全防御って言う人ほど、穴だらけなのよ」
リサが即座に切り捨てた。
カイは掃除機を下ろす。
「……デバッグ、入ります」
「は? それでどうやって――」
御曹司の言葉は途中で止まった。
掃除機の吸引音が、低く唸り始める。
カイは“兵器そのもの”ではなく、
その背後――制御用サーバーに接続された不可視の領域へ吸引をかけた。
「ファームウェアに、不要な参照が残ってます」
【SYSTEM LOG】
【不正コード:検出】
【強制アクセス:開始】
「ちょ、ちょっと待て!
勝手に触るな! 保証が――」
「今は保証より、街ですね」
吸引が最大になる。
紫ノイズが引き剥がされ、
兵器の動きが、急停止した。
【SYSTEM LOG】
【強制シャットダウン:完了】
静寂。
御曹司は、青ざめた顔で兵器を見つめていた。
「……修理代、いくらだと思っている」
リサが肩をすくめる。
「さあ?
でも、あんたのプライドよりは安いんじゃない?」
カイは掃除機を背負い直し、御曹司に一言だけ告げた。
「最新鋭でも……バグはありますよ」
御曹司は何も言えなかった。
カイとリサは、その場を後にする。
「ねえカイ」
「はい」
「今の、ちょっとスカッとしたでしょ」
「……少しだけ」
「ふふ。
まあ、掃除が一番よ。……にゃん」
二人は、次の現場へ向かって歩き出した。
街は、また一つ――守られた。




