第70話 土下寝
東京ダンジョン中層。
探索者パーティーが大声で笑っていた。
「おい見ろよ」
「清掃員だ」
「また雑巾持って歩いてる」
リサ・カミシロが眉をひそめる。
「朝からうるさいわね」
探索者が肩をすくめる。
「お前ら後始末係だろ?」
「戦えない雑用」
ナカニシ・コウイチが呟く。
「アホくさっ」
その瞬間。
空気が歪む。
通路の壁が消えた。
床が透明になる。
【SYSTEM LOG】
【Texture Collapse : Detected】
探索者が叫ぶ。
「なんだこれ!?」
壁も床も見えない。
方向感覚が完全に消える。
一歩踏み出した探索者が落ちる。
「うわああ!」
下は穴だった。
【SYSTEM LOG】
【Dungeon Geometry : Corrupted】
リサが冷静に言う。
「バグね」
カイ・シノハラはバケツの水を床に流した。
水面に、正しい通路が映る。
「進路確認」
モップでラインを拭く。
歪んだ座標が修正される。
【SYSTEM LOG】
【Texture Restored】
壁が戻る。
床が戻る。
探索者たちは地面にへたり込む。
「た、助かった…」
一人がカイを見る。
「……すまん」
リサが指を床に向ける。
「違うでしょ」
探索者たちが固まる。
リサ。
「さっき何て言った?」
探索者が目を逸らす。
リサ。
「清掃員は雑用?」
静かに床を指す。
「ほら」
「感謝は?」
ナカニシが笑う。
「正式なやつや」
探索者たちがゆっくり膝をつく。
リサ。
「違う」
「もっと下」
探索者たちが床に伏せる。
額を床につける。
完全な土下寝。
リサが腕を組む。
「そう」
「それ」
ナカニシ。
「見事なフォームや」
カイが言う。
「作業は終わっています」
リサが小さく言う。
「次見下したら」
「もう助けないから」
そして少し視線を逸らす。
「……にゃん」
【SYSTEM LOG】
【Cleaning Complete】
探索者たちは、しばらく起き上がれなかった。




