第6話 開かずの扉
探索者ギルドの受付は、今日も騒がしかった。
討伐帰りの探索者たちが報酬を受け取り、次の依頼に群がっている。
その列の端に、作業服姿の青年が立っていた。
「……清掃依頼です」
差し出されたカードを、受付嬢は一瞥する。
そこに書かれていた職業欄を見た瞬間、彼女の眉がわずかに吊り上がった。
「清掃員……?」
声の温度が、一段下がる。
「はぁ……。ああ、はいはい。そこに立っててください」
露骨だった。
周囲の探索者たちも、くすくすと笑いを漏らす。
「ちょうどいいわ」
受付嬢は端末を操作しながら言った。
「最深部に“絶対に開かない扉”があるの。誰も開けられない、厄介なやつ」 「探索者じゃ手に負えないから……掃除でもしてきたら?」
投げやりに告げられた依頼。
ほとんど嫌がらせだった。
「分かりました」
カイ・シノハラは、それだけ答えてカードを受け取った。
扉は、確かにそこにあった。
東京ダンジョン最深部。黒曜石のような巨大な扉。
探索者たちが集まり、力技で挑んだ痕跡が残っている。
斬撃、魔法、爆発――どれも無意味だった。
「条件不明のロックだ」 「絶対に開かないって噂は本当だな」
カイは扉を見つめ、静かに首を傾げる。
「……ああ、なるほど」
扉に触れもしない。
代わりに、彼は手にしていた使用済みのモップを、そっと扉の前に置いた。
一瞬、何も起きない。
次の瞬間。
【SYSTEM LOG】
【キーオブジェクト:認識】
【デッドロック解除】
重い音を立て、扉がゆっくりと開いた。
探索者たちは言葉を失った。
扉の奥には、山のような報酬。
魔石、装備、希少素材――目が眩むほどの価値。
ギルドに戻った瞬間、受付嬢は凍りついた。
「……え?」
カイは報酬に目もくれず、床に置いたモップを拾い上げる。
「使い終わったものは、ちゃんと回収しないと」
それだけ言って、踵を返した。
扉は開いた。
バグは解消された。
そして彼は、
誰にも礼を言われないまま、次の清掃へ向かった。
汚れは、放置するのが一番いけないのだから。




