第66話 臓器マーケット
最初に消えたのは、人間の名前だった。
東京ダンジョン外縁区。
街のスクリーンに奇妙な一覧が流れる。
【HEART : 98% MATCH】
【LIVER : PREMIUM QUALITY】
【EYE : RARE TYPE】
人の顔の横に、臓器の評価が表示されていた。
【SYSTEM LOG】
【Human Body Data : Itemized】
通行人が後ずさる。
「……俺の肺、値段ついてる」
「冗談だろ」
地下マーケットでは、すでに取引が始まっていた。
闇ブローカーが端末を振る。
「この腎臓、海外で高く売れるぞ」
「若い心臓はプレミアだ」
リサ・カミシロが歯を食いしばる。
「最低」
「人間をパーツ扱い?」
カイ・シノハラはログを見る。
【SYSTEM LOG】
【Body Ownership Flag : Lost】
【Organ Data : Tradeable】
「人体所有データが外されています」
「臓器が“商品”として認識されています」
リサ。
「ふざけないで」
その瞬間。
闇市場の奥から、武装したブローカーが現れる。
「邪魔するな」
「今は臓器が一番儲かるんだよ」
銃を構える。
リサが構えようとした瞬間。
横から声。
「アホくさっ」
ナカニシ・コウイチだった。
足元のたわしを軽く蹴る。
バシュッ。
高速回転したたわしがブローカーの銃を弾き飛ばす。
「人間バラして金儲け?」
もう一本。
バシュッ。
敵の端末が砕ける。
ナカニシが笑う。
「笑わしてもろたで〜」
闇市場の連中が一斉に襲いかかる。
ナカニシはたわしを連続で蹴る。
バシュッ
バシュッ
バシュッ
高速ブラシが装備を破壊。
膝を砕き、武器を弾く。
リサが散弾を撃つ。
化学弾が床を溶かす。
「カイ、今!」
カイは中央サーバーへ歩く。
壁に浮かぶ人体データ。
【SYSTEM LOG】
【Organ Market Core : Active】
臓器。
肺。
肝臓。
すべて在庫として並んでいた。
カイはバケツの水を床へ流す。
水面に浮かぶのは人体ID。
「所有権を戻します」
モップで基幹ラインを拭き取る。
【SYSTEM LOG】
【Body Ownership : Restored】
一瞬、街が揺れる。
スクリーンの臓器データが消える。
マーケット端末が停止。
闇ブローカーが叫ぶ。
「取引が消えた!?」
ナカニシが最後のたわしを蹴る。
バシュッ。
中央サーバーに直撃。
火花。
「ほな、さいなら」
【SYSTEM LOG】
【Organ Trade System : Terminated】
街のスクリーンは静かになった。
人の名前だけが残る。
リサが言う。
「身体はね」
「売り物じゃないのよ」
ナカニシ。
「部品扱いは気分悪いわ」
カイは掃除機を背負う。
「人間は」
「交換部品ではありません」
【SYSTEM LOG】
【Human Integrity : Restored】
【Cleaning Complete】




