第64話 周波数
最初に気づいたのは、カイだった。
東京ダンジョン管理局・地下制御室。
カイ・シノハラは、掃除機のログを見ていた。
【SYSTEM LOG】
【Environmental Noise : Irregular】
「……世界の揺れ方が違います」
リサ。
「揺れ?」
ナカニシ・コウイチ。
「地震ちゃうんか」
カイは首を振る。
「物理じゃありません」
「周波数です」
都市のノイズ。
人の声。
電波。
思考。
すべてが、微妙にズレていた。
【SYSTEM LOG】
【Global Resonance Drift : Detected】
リサが端末を見る。
「宇宙文明の観測波と干渉してる」
ナカニシ。
「つまり?」
「向こうが覗いとる」
地下深層。
古代基盤ノード。
神社の地下に眠る共振装置。
カイはバケツの水を床に流した。
水面が、細かく震える。
そこに現れたのは数値ではなく“波形”。
「……これです」
【SYSTEM LOG】
【Human Consciousness Band : 7.83Hz】
リサ。
「シューマン共振」
ナカニシ。
「地球の心拍やな」
だが今。
そこに別の波が重なっていた。
【Unknown Signal : 7.92Hz】
わずかな差。
だが十分だった。
人々のイライラ。
評価依存。
炎上感染。
全部、このズレから始まっていた。
カイ。
「宇宙側が、観測しやすい周波数に合わせようとしています」
「人間を……調律しています」
リサが歯を噛む。
「ふざけないで」
ナカニシ。
「人類チューニング計画やん」
装置の中心。
古代文明の“音叉”。
石と金属でできた共振体。
カイはモップを水に浸す。
濡れた繊維が、振動を拾う。
【SYSTEM LOG】
【Manual Resonance Override】
モップを共振体に当てる。
ゴン。
低い音。
世界全体に波が広がる。
【Global Resonance Reset】
街の空気が変わる。
人々が深く息を吐く。
怒りが引く。
焦燥が消える。
評価スコアが意味を失う。
リサ。
「戻った」
ナカニシ。
「やっぱ日本の文明、音楽系やったんやな」
カイは掃除機を背負う。
「周波数は……」
「支配すると壊れます」
「合わせると、生きます」
【SYSTEM LOG】
【Resonance Stabilized】
【External Observation Reduced】
宇宙側の信号が遠ざかる。
世界は、静かになった。
リサ。
「これ以上いじったら、次は殴るから」
ナカニシ。
「ほな、さいなら宇宙人」
カイ。
「清掃完了です」
【SYSTEM LOG】
【Cleaning Complete】




