第61話 改ざんされた過去
最初におかしくなったのは、教科書だった。
東京ダンジョン外縁区。
電子掲示板に流れる年表。
「織田信長、スマホで天下統一」
「江戸幕府、サブスク制」
「第二次世界大戦、三日で終了」
誰も笑わない。
【SYSTEM LOG】
【Historical Data : Corrupted】
【Timeline Rewrite Detected】
学校では教師が固まっていた。
「……え? 昨日までと内容が違う」
博物館の展示が次々と書き換わる。
像の銘板が変わり、肖像画が別人になる。
人々は混乱し始める。
「俺の先祖、宇宙人って書いてあるんだけど」
「明治維新がイベント扱いになってる!」
リサが眉を吊り上げる。
「なにこれ。歴史までナメてんの?」
ナカニシ・コウイチが端末を見る。
「宇宙フォーマット流入しとるな」
「昨日の侵入の残滓や」
カイ・シノハラは静かにログを追う。
【SYSTEM LOG】
【Past Record Layer : External Override】
「過去ログが上書きされています」
「このままだと、“本当に起きたこと”が消えます」
地下アーカイブ。
世界の履歴が保存されている中枢。
壁一面に流れる改変データ。
【SYSTEM LOG】
【Timeline Buffer Overflow】
歴史が“編集可能コンテンツ”として扱われていた。
リサが吐き捨てる。
「最低」
「都合悪い過去を削除してるだけじゃない」
ナカニシ。
「勝った側の作文大会やな」
カイはバケツの水を床に流す。
水面に、歪んだ年号が浮かび上がる。
「原本参照を復元します」
モップで基幹履歴ラインを拭き取る。
【SYSTEM LOG】
【Primary History Restoring】
一瞬、空気が反転する。
街のスクリーンがブラックアウト。
数秒後。
年表が戻る。
像の銘板が元に戻る。
肖像画の顔が正しい人物になる。
教科書のページが静かに再同期される。
【SYSTEM LOG】
【Timeline Integrity : Stable】
人々は立ち尽くす。
誰かが呟く。
「……ちゃんと、戻った」
リサ。
「歴史はね」
「書き換えるもんじゃなくて、背負うもんなのよ」
ナカニシ。
「黒歴史込みで自分や」
カイは掃除機を背負い直す。
「過去は」
「削除できません」
「参照し続けるだけです」
リサ。
「いいこと言うじゃない」
「……にゃん」
【SYSTEM LOG】
【Historical Cleanup Complete】




