第59話 星は買えるが、心は買えない
最初に異常が出たのは、ランキングだった。
東京ダンジョン外縁区・出版管理ノード。
巨大スクリーンに並ぶ星の数。
★★★★★
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すべて同じ評価。
【SYSTEM LOG】
【Creative Ranking System : Abnormal Surge】
街の書店では、見覚えのない作品が山積みになっていた。
「今期アニメ化決定!」
「読者満足度99.8%!」
誰も読んでいないのに、拍手音だけが流れている。
リサが睨む。
「……誰これ」
カイ・シノハラは端末を確認する。
【SYSTEM LOG】
【Evaluation Purchased】
【Artificial Praise Detected】
「評価が購入されています」
「読まれていない作品が、数値だけで押し上げられています」
地下ノード。
創作スコア管理サーバー。
金色の回路が脈動していた。
【SYSTEM LOG】
【Reputation Injection Core : Active】
ナカニシ・コウイチが肩をすくめる。
「アホくさっ」
「星は金で買えても、感動は買われへんで」
回路には大量の決済ログ。
レビューはすべて同一文面。
「最高でした!」
「泣きました!」
「人生変わりました!」
誰の人生かは書いていない。
リサが吐き捨てる。
「そりゃ失敗するわ」
「こんなんでコミック化してアニメ化して、コケない方がおかしい」
カイはモップを構えた。
床に走る評価配線。
数値だけが循環する閉鎖ループ。
「創作評価オーバーライド解除します」
モップで基幹ラインを拭き切る。
【SYSTEM LOG】
【Rating Loop Severed】
【Artificial Boost Removed】
スクリーンの星が消える。
ランキングが再計算される。
本当に読まれている作品だけが、静かに浮かび上がった。
書店の山積みが崩れ、棚が整理される。
人々は立ち止まり、表紙を眺め始める。
誰も拍手しない。
ただ、ページをめくる音だけ。
リサが言う。
「名作はね」
「ランキングで探すもんじゃないのよ」
ナカニシ。
「自分で踏んで見つけるもんや」
カイは掃除機を背負い直す。
「物語は」
「買うものではなく、出会うものです」
リサ。
「金で評価盛る暇あったら、一行でもマシな台詞書きなさい」
「……にゃん」
【SYSTEM LOG】
【Creative System : Restored】
【Cleaning Complete】




