第5話 魔剣
東京ダンジョン第十層。
崩れかけた神殿跡で、S級探索者パーティーは歓声を上げていた。
「……あったぞ!」
石台に突き立てられていたのは、漆黒の剣。
刀身には無数の紋様が走り、紫色の光が脈動している。
「間違いねぇ……伝説の魔剣だ」
「しかも、魔力が無尽蔵だぞ!」
剣を引き抜いた瞬間、空気が震えた。
剣の周囲に、黒い塊が次々と現れる。
「ゴ、ゴミ……?」
紙屑、瓦礫、壊れた武具、用途不明の残骸。
それらが、剣の周囲から無限に湧き出していた。
「……はは」
探索者の一人が、笑った。
「はははははは!」
「無限生成だ!」
「すげぇ! どんな魔法も無限に使えるぞ!」
彼らはまだ、それが“何を生む力”なのか理解していなかった。
ダンジョンの外。
街中に、異変が広がり始めていた。
路地に溢れるゴミ。
道路を塞ぐ瓦礫。
ビルの隙間から吐き出される、意味を持たない残骸。
「な、なんだこれ!?」
「処理が追いつかない!」
魔剣は、ダンジョンを介して街と接続されていた。
剣が生み出す“不要データ”は、現実空間に直接書き込まれていく。
しかも――止まらない。
「おい、剣をしまえ!」
「無理だ、魔力が暴走してる!」
ゴミは指数関数的に増殖し、
街は瞬く間に埋もれていった。
世界が、軋み始める。
その瓦礫の海の中を、
作業服姿の男が歩いていた。
「……あー、これはひどいですね」
カイ・シノハラは、積み上がるゴミを見回した。
「無限増殖……参照元は――そこか」
視線の先にあるのは、探索者たちが守る“魔剣”。
「な、なんだお前!」
「近づくな! それは俺たちの――」
カイは首を振った。
「それ、魔剣じゃないです」
背中の掃除機を下ろす。
「正確には――無限増殖するゴミ箱です」
一拍。
スイッチを入れる。
ゴォォォォ……!
剣そのものではない。
剣の“影”に接続された、見えない参照領域。
無限増殖の起点。
解放されないメモリ。
それを――吸う。
紫色のノイズが引き剥がされ、
剣は、ただの鉄塊へと変わった。
街中のゴミが、一斉に消えていく。
探索者たちは、腰までゴミに埋もれたまま呆然としていた。
「……え?」
「なにが……起きた?」
カイは掃除機を背負い直す。
「メモリ解放、完了」
【SYSTEM LOG】
【無限増殖バグ:削除完了】
【世界修正率:微増】
カイは振り返りもしない。
「次の現場……行きますか」
そう言って、静かに瓦礫の消えた街を後にした。
魔剣は残らなかった。
ゴミだけが、最初から存在しなかったかのように消えていた。
そして世界は、
ほんの少しだけ――綺麗になった。




