第56話 信仰オーバーフロー
街の祈りが、同時に止まった。
東京ダンジョン外縁区。
神社の鈴は鳴らず、教会の鐘は沈黙し、路上の占い屋は白目を剥いて倒れていた。
【SYSTEM LOG】
【Religion System : Overflow】
【Faith Buffer : Exceeded】
人々は膝をつき、虚空を見つめる。
「……何を信じればいいんだ」
精神的支柱が消え、街全体がフリーズしていた。
リサが眉をひそめる。
「気持ち悪。空気が重すぎ」
カイ・シノハラは静かにバケツを下ろす。
「信仰データが溢れてます」
「処理しきれず、全部停止しています」
地下ノード。
壁一面に数式化された祈りのログ。
【SYSTEM LOG】
【Faith Stack Overflow】
カイはバケツの水を床に流した。
水面に浮かび上がる、過剰参照ポイント。
モップでその一点を拭き取る。
「オーバーフロー解除」
世界が、軽く軋む。
【SYSTEM LOG】
【Religion System : Normalized】
街に音が戻る。
鈴が鳴り、鐘が響き、人々はゆっくり立ち上がった。
リサが腕を振る。
「はー……」
「信仰までバグるとか、ろくな世界じゃないわね」
カイは水を捨てる。
「信じる気持ちは、容量制限付きです」
【SYSTEM LOG】
【World Authority : Religion Accessible】
能力フラグが一瞬だけ立つ。
カイは見なかったことにした。
【SYSTEM LOG】
【Cleaning Complete】




