第51話 多数決
最初は、アンケートだった。
「この清掃員は、必要?」
選択肢は二つ。
YES
NO
街のスクリーンに、投票画面が表示される。
【SYSTEM LOG】
【Public Decision Protocol : Activated】
探索者ギルド前。
人々がスマホを掲げる。
「どうせ清掃員なんて底辺だろ」 「いらなくね?」
数字が跳ね上がる。
NO:63%
リサ・カミシロ。
「……は?」
ナカニシ・コウイチ。
「アホくさっ」
「誰が決めとんねん」
だが投票は止まらない。
【SYSTEM LOG】
【Collective Judgment Mode : Online】
ドローンが飛び、 ホログラムが空を埋める。
《不要職業判定進行中》
カイ・シノハラは、いつも通り落書きを消していた。
「……多数決ですか」
「論理ではなく、感情ベースですね」
地下制御区画。
巨大な円形ホール。
中央に浮かぶのは《群衆裁定コア》。
【SYSTEM LOG】
【Mob Rule Engine : Active】
怒りの履歴。
炎上ログ。
評価スコア。
すべてが束ねられ、 “正義”として再計算されていた。
ナカニシ。
「前の炎上、そのまま食うとるな」
「これ、裁判ちゃう」
「処刑や」
地上。
投票結果が確定する。
NO:71%
《清掃員:不要》
街のスピーカーが鳴る。
「多数決により、対象職業の停止を決定しました」
探索者たちがざわめく。
リサ。
「ふざけんな!」
「誰が世界掃除すんのよ」
カイはモップを床に置いた。
「群衆の判断は」
「過去の感情を参照しています」
増幅された怒り。 拡散された嘘。 評価依存ログ。
すべてが混ざっている。
「正しいかどうかは、見ていません」
掃除機起動。
ゴォォォ……。
裁定コアへ吸引。
【SYSTEM LOG】
【Collective Cache : Purging】
悲鳴のようなノイズ。
投票数が揺らぐ。
YES:52%
NO:48%
カイは続ける。
「多数決は、便利です」
「でも」
モップで床を一拭き。
「責任は、分散されます」
【SYSTEM LOG】
【Mob Rule Engine : Disabled】
スクリーンが消える。
ドローンが墜落する。
街に、静けさが戻った。
ナカニシ。
「ほな、さいなら」
リサは腕を組む。
「次、投票で人殺そうとしたら」
「私が先に殴るから!」
「……にゃん」
カイは掃除機を背負う。
「清掃は」
「多数決では決まりません」
【SYSTEM LOG】
【Cleaning Complete】




