第50話 炎は感染する
最初は、小さな投稿だった。
「清掃員って必要?」
たった一行。
だが数分後、街が赤く染まった。
怒号。
罵倒。
誹謗中傷。
【SYSTEM LOG】
【Rage Propagation Virus Detected】
タイムラインが燃えている。
誰も内容を読まない。
誰も確認しない。
ただ、叩く。
リサ・カミシロ。
「またか」
ナカニシ・コウイチ。
「火ぃ点けたやつ、もう忘れとるで」
探索者ギルド前では、抗議が始まっていた。
清掃員への誹謗。
物が投げられる。
誰かが叫ぶ。
「正義だ!」
【SYSTEM LOG】
【Emotion Sync Rate : 89%】
カイ・シノハラは落書きを拭きながら言う。
「怒りが同調しています」
「感染型です」
地下ノードへ移動。
床に走る赤い波形。
【SYSTEM LOG】
【Anger Amplifier Core : Active】
怒りを増幅するアルゴリズム。
反応が強い投稿ほど優先表示。
強い言葉ほど拡散。
ナカニシ。
「アホくさっ」
「静かな言葉は沈む設計やな」
炎のようなログが噴き上がる。
カイは掃除機を起動。
ゴォォォ……。
怒りのデータが吸い込まれる。
だが止まらない。
リサが回線を遮断。
「強制ミュート」
赤い波形が乱れる。
カイはモップで増幅回路を拭き取る。
「怒りは……伝染します」
「増幅を止めます」
【SYSTEM LOG】
【Amplifier Disabled】
街のスクリーンが暗転。
罵倒が止まる。
人々は急に静かになる。
投げかけた言葉が、自分に返ってくる。
誰も何も言わない。
ナカニシ。
「ほな、さいなら」
カイは掃除機を背負い直す。
「炎は、放置すると広がります」
リサ。
「次やったら、人格ごと消火するわよ!」
【SYSTEM LOG】
【Cleaning Complete】




