第44話 無限放水
下水が逆流していた。
歩道の排水口。 マンホール。 ビルの非常用スプリンクラー。
あらゆる場所から水が噴き出している。
【SYSTEM LOG】
【Water Supply System : Infinite Duplication】
【Flood Level : Rising】
車が浮く。
店のシャッターが水圧で歪む。
「逃げろ!」 「上だ!」
人々が建物の高層階へ押し寄せる。
カイ・シノハラは冠水した交差点に立つ。
モップを肩に担ぐ。
その横。
「東京の水回り、だいぶ荒れとるな」
ナカニシ・コウイチ。
掃除機を背負い、腰にたわし。
【SYSTEM LOG】
【Cleaner ID : KANSAI-BRANCH / BLUE-RANK VERIFIED】
「無限複製や」
「水が水を呼んどる」
カイが給水制御ハブを確認する。
「複製フラグが常時オンです」
ナカニシが言う。
「止めな増える一方やな」
上階の窓から助けを求める声。
カイは水中へ歩き出す。
制御バルブの位置を特定。
【SYSTEM LOG】
【Duplication Source : Locked】
モップを差し込む。
柄を回す。
水流が一瞬乱れる。
「まだや」
ナカニシがたわしを蹴る。
たわしがバルブの隙間に挟まり、逆回転。
「ほな、追い込みや」
カイがモップで接点を拭く。
【SYSTEM LOG】
【Duplication Flag : Disabled】
噴き上がっていた水柱が崩れる。
排水が追いつき始める。
車が着地。
人々が屋上から降りてくる。
【SYSTEM LOG】
【Water Supply : Normalized】
ナカニシが肩を回す。
「水で街沈めるとか、スケールでかすぎやろ」
カイは制御ログを見る。
【SYSTEM LOG】
【Global Water Authority : Accessible】
「世界の水系統にアクセスできます」
ナカニシが即言う。
「やめとき」
「それ使い始めたら、毎日風呂掃除や」
カイは頷く。
「業務範囲外です」
ナカニシは掃除機を起動。
残留バグ水を吸引。
「ほな、さいなら」
歩きながら言い捨てる。
「東京、ぬるいで」
カイはモップを洗う。
【SYSTEM LOG】
【Infinite Duplication : Cleared】
【Cleaning Complete】
街に、水位線だけが残った。




