第42話 通信セグメンテーション違反
渋谷交差点。
人々がスマホを耳に当てて立ち尽くしていた。
「母さんの声が急に男に変わった」 「会社の電話に知らない家族の会話が流れてくる!」
街中のスピーカーから、バラバラの音声が同時に流れる。
【SYSTEM LOG】
【Communication Layer : Corrupted】
【Segmentation Violation Detected】
探索者が叫ぶ。
「全部の回線が混ざってる!」
駅構内。
アナウンスに赤ん坊の泣き声。
救急無線にラジオ番組。
個人通話に防災放送。
会話という概念が崩壊していた。
カイ・シノハラは通信中継塔の足元に立つ。
リサ・カミシロが横に来る。
「最悪ね。全部つながってる」
その背後。
「ほー、東京も派手にやっとるな」
関西支部のナカニシ・コウイチが現れた。
肩に掃除機。
腰に大量のたわし。
「全部混線? 笑わしてもろたで〜」
【SYSTEM LOG】
【Cleaner ID : KANSAI-BRANCH / BLUE-RANK VERIFIED】
カイが中継装置にしゃがみ込む。
「通信メモリが分離できていません」
「典型的なセグメンテーション違反です」
ナカニシが言う。
「要は境界なくなっとるってことやろ」
「せやったら――」
たわしを一つ蹴る。
バシュッ。
たわしが中継箱に直撃。
火花。
「雑音減ったで」
リサが睨む。
「勝手に壊さない」
カイはバケツの水を地面に流す。
静かな水面。
そこに回線の流れが映る。
【SYSTEM LOG】
【Memory Segment Visualization : Active】
「分離線、確認」
モップで水面をなぞる。
交差する通信ラインを一つずつ切り分ける。
【SYSTEM LOG】
【Segment Repair : Executing】
駅のアナウンスが正常化。
救急無線が戻る。
通話が個別に分離される。
【SYSTEM LOG】
【Communication Layer : Restored】
人々のスマホが一斉に鳴る。
「戻った!」 「繋がった!」
ナカニシが笑う。
「ほな、さいなら」
掃除機で残留ノイズを吸引し、そのまま立ち去る。
リサが言う。
「毎回横取りね」
カイは中継塔を見る。
内部ログが走る。
【SYSTEM LOG】
【Global Communication Access : Available】
「世界の通信にアクセスできます」
「使う?」
「使いません」
リサは言う。
「でしょうね」
カイはバケツを持ち上げる。
「混ざるのも汚れです」
【SYSTEM LOG】
【Segmentation Violation : Cleared】
【Cleaning Complete】
街に、言葉が戻った。




