第40話 天気ループ
東京上空。
雲が動かなかった。
雨が降り続き、止まらない。
三日。
五日。
七日。
街は灰色に固定されていた。
【SYSTEM LOG】
【Weather System : Infinite Loop】
【Climate Process : Stalled】
交差点。
傘を差した人々が立ち止まる。
「まだ雨か」 「ずっと同じだぞ」
カフェの客が言う。
「もう何日目だ?」
別の男。
「曜日の感覚おかしくなってきた」
空は変わらない。
音も匂いも湿度も同じまま。
カイ・シノハラはビル屋上に立っていた。
掃除機《虚無を喰らう竜》を背負う。
【SYSTEM LOG】
【Weather Reference Node : Locked】
「天気システムがループしています」
リサ・カミシロが隣に来る。
「最悪ね」
「同じ空とか拷問でしょ」
カイはアンテナ設備の根元にしゃがみ込む。
「ここです」
掃除機のコードを引き出す。
制御端子に巻き付ける。
【SYSTEM LOG】
【Loop Handler Detected】
「ループ処理、強制終了」
電流が流れる。
雲の形が崩れる。
雨粒の落下角度が変わる。
【SYSTEM LOG】
【Climate Sequence : Restarting】
空気が切り替わった。
風が吹く。
雲が流れる。
遠くで雷鳴。
数分後。
雨が止んだ。
薄日。
街の人間が空を見る。
「……晴れた」 「久しぶりだ」
リサが言う。
「たったそれだけで顔変わるのね」
カイは空を見上げる。
内部ログが一瞬走る。
【SYSTEM LOG】
【Weather Authority : Accessible】
「……」
リサが覗く。
「世界の天気にアクセスできるみたいです」
「使う?」
「使いません」
リサは言う。
「でしょうね」
雲の隙間から青空。
人々が歩き出す。
洗濯物が干される。
店のシャッターが上がる。
カイは掃除機を背負い直す。
「同じ天気も汚れです」
【SYSTEM LOG】
【Weather Loop : Cleared】
【Cleaning Complete】
街に季節が戻った。




