第39話 テクスチャ消失
東京ダンジョン・下層。
探索者の足が止まった。
「……壁、見えるか?」
誰も答えない。
前後左右。
すべてが透けていた。
床も天井も輪郭を失い、奥行きだけが歪んで続いている。
【SYSTEM LOG】
【Texture Data : Missing】
【Render Error Detected】
「どっち行けばいいんだ……」
一歩踏み出した探索者が転倒する。
床の高さが分からない。
別の者が叫ぶ。
「後ろどこだよ!」
方向感覚が崩壊していた。
カイ・シノハラがバケツを置く。
「テクスチャバグです」
探索者の一人が振り向く。
「見えねぇんだぞ!」
カイは答えず、水を床に流す。
静かな水面が広がる。
【SYSTEM LOG】
【Reflection Layer : Active】
水に、壁が映った。
床が映った。
通路の形が浮かび上がる。
「……あ」
探索者が声を上げる。
「道だ」
「これ……一本しかない」
カイはモップで水面をなぞる。
映像が安定する。
【SYSTEM LOG】
【Texture Reference : Rebuild】
「水は鏡です」
「正しい表面情報が残っています」
探索者たちは、水面に映る通路に沿って歩き始める。
数分後。
出口の光。
【SYSTEM LOG】
【Texture Data : Restored】
壁が戻る。
床が戻る。
ダンジョンが現実に固定される。
探索者たちが振り返る。
「助かった」 「ありがとう」
カイはバケツを持ち上げる。
「汚れと同じです」
「見えなくても」
「あります」
【SYSTEM LOG】
【Cleaning Complete】
探索者たちは理解した。
このダンジョンでは、
視覚より先に、 清掃員が現実を掴んでいる。




