第34話 デッドゾーン
探索者たちは、清掃員を見下していた。
「後始末係が前に出るなよ」
「モップ持って何ができんだ」
東京ダンジョン中層。
カイ・シノハラは何も言わず、 床の血痕を拭いていた。
その瞬間だった。
空気が、抜けた。
魔力の流れが、完全に停止する。
【SYSTEM LOG】
【Magic Reference:Lost】
【Skill Tree:Disconnected】
「……?」
探索者の一人が、手のひらを見つめる。
「魔法が……出ない」
次々とスキルが不発する。
装備はただの鉄塊になり、 強化も結界も消失。
【SYSTEM LOG】
【Dead Zone Detected】
「デッドゾーンです」
カイが静かに告げた。
「魔法とスキルの参照元が切断されています」
その直後。
通路の奥から、 モンスターが這い出てきた。
「くそっ! 攻撃が通らねぇ!」
その時。
乾いた破裂音。
バァン。
モンスターの胴体が吹き飛んだ。
現れたのは、 リサ・カミシロ。
肩に担いだのは、 外見は水鉄砲にしか見えない装置。
だが発射されたのは、 浄化薬剤を含んだ化学散弾だった。
「はいはい、どきなさい」
バァン。
二体目が崩壊。
探索者たちは呆然と立ち尽くす。
「カイ、今!」
カイは中央へ歩き出す。
その背中を庇うように、
リサが前へ出た。
「触れたら殺す」
乾いた銃声。
モンスターは次々と崩れ落ちる。
すべての射線は、
カイから外側へ向けられていた。
床には溶解した残骸だけが残る。
探索者たちは、 初めて“戦えない側”になっていた。
デッドゾーンの中心。
壁に走る異常な数式パターン。
【SYSTEM LOG】
【Reference Source:Corrupted】
「魔法の参照元がズレています」
カイはバケツから浄化水を取り、 床に静かに流した。
水面に、 歪んだ座標が映る。
「参照エラー修正」
モップでその地点を拭き取る。
世界が、軽く震えた。
【SYSTEM LOG】
【Magic Reference:Restored】
【Dead Zone:Cleared】
魔力が戻る。
探索者の装備が再起動し、 スキルツリーが再接続される。
誰も言葉を発せなかった。
さっきまで見下していた清掃員が、 戦場の核心を処理していた。
リサが銃を下ろす。
「……終わった?」
「修正完了です」
リサはそっぽを向く。
「勘違いしないで」
「世界のためよ!……にゃん」
カイは掃除機を背負い直す。
「汚れを残せば、 世界は壊れます」
【SYSTEM LOG】
【Cleaning Complete】
探索者たちは、 もう清掃員を見下さなかった。




