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ダンジョン・デバッガー清掃員 〜世界の不具合を修正してたら神の領域に到達しました〜  作者: やはぎ・エリンギ


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第33話 セグメンテーション違反

異変は、笑顔から始まった。


東京ダンジョン管理区域。


避難誘導中の探索者が、突然立ち止まり、隣の見知らぬ女性に向かって言った。


「……母さん?」


女性は困惑しながらも、涙ぐむ。


「あなた……帰ってきたの?」


周囲でも、同じことが起き始めていた。


知らない人間同士が抱き合い、

見知らぬ記憶で泣き、怒り、微笑んでいる。


【SYSTEM LOG】

【Memory Segmentation Fault:Detected】


「……記憶領域が破損していますね」


カイ・シノハラは静かに呟いた。


「セグメンテーション違反です」


人々の“メモリ領域”が壊れ、

他人の記憶ポインタを参照し始めていた。


リサ・カミシロが舌打ちする。


「最悪」


「人格まで混線してるじゃない」


その瞬間。


カイが突然、腕を組んだ。


「……別に心配してないし」


リサが固まる。


「……は?」


カイは視線を逸らし、頬をかいた。


「ちょっと危なかっただけです」


「でも、あんたが無事なら……別に」


リサの背筋に、悪寒が走った。


「……ちょっと待ちなさい」


カイは小さく咳払いする。


「……にゃん」


完全にアウトだった。


【SYSTEM LOG】

【Memory Crosslink:Lisa Kamishiro → Kai Shinohara】


リサのツンデレ人格が、

カイの行動制御に割り込んでいる。


「やめなさい今すぐ!!」


リサがカイの胸倉を掴む。


「それ私の挙動ログ!!」


「返しなさいよ!!」


カイは申し訳なさそうに首を傾げた。


「……勝手に入ってきました」


リサは深呼吸した。


「いいから直して」


「今すぐ」


カイはモップを取り出す。


「モップは……」


柄を地面に突き立てる。


「メモリポインタとして使えます」


床に微かな光の線が走る。


混ざり合った記憶の経路が、可視化された。


母と子。

恋人。

仲間。

赤の他人。


無数の記憶が、絡まった配線のように交差している。


カイは一本ずつ、丁寧に辿っていく。


「ここは……あなたですね」


モップの先で軽く叩く。


一人の探索者が我に返った。


「……あれ?」


「で、ここ」


また一つ、記憶が戻る。


【SYSTEM LOG】

【Memory Pointer Restored】


淡々と、正確に。


カイは全員分の記憶を分離していった。


最後に残ったのは、

リサとカイの間に繋がった細い線だった。


「……これ」


リサが言う。


「私のだから」


カイは、ほんの一瞬だけ躊躇した。


そして線を切る。


【SYSTEM LOG】

【Crosslink Removed】


空気が静まった。


リサは額を押さえる。


「……戻った」


「ほんと、最悪なバグね」


カイはモップを片付ける。


「清掃完了です」


リサは何も言わず背を向けた。


数歩歩いて、立ち止まる。


「……ねえ」


振り返らずに言う。


「さっきの」


「あなたの記憶」


カイが顔を上げる。


リサは小さく舌打ちした。


「一部、残っちゃったみたい」


清掃員としての孤独。

誰にも評価されない作業。

それでも続ける理由。


リサは拳を握る。


「……あんた」


「そんな顔で一人でやってたのね」


少し間があって。


「別に同情じゃないから」


「ただ……」


声が小さくなる。


「次からは、ちゃんと私も使いなさいよ」


カイは静かに頷いた。


「ありがとうございます」


リサは顔を赤くして背を向ける。


「……にゃん」


誰も聞かなかったことにした。


清掃完了。


だが、

共有された孤独だけが、

静かに残っていた。


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