第28話 奪われたもの
それは、確かに倒されたはずだった。
東京ダンジョン・上層。
探索者たちは、巨大な敵の骸を前に息をついていた。
「……終わったな」
「ああ、最強クラスだったぞ、今の」
次の瞬間だった。
倒れた敵の身体が、黒く滲んだ。
骸の影から、細い糸のようなものが伸び、
探索者たちの胸へ――刺さる。
「……え?」
一人が、崩れ落ちた。
続いて、もう一人。
目は開いたまま、
意識だけが、抜け落ちる。
【SYSTEM LOG】
【Soul Data:Extracted】
「……魂を奪うバグですね」
少し離れた位置で、
カイ・シノハラは静かに呟いた。
「撃破判定と同時に、
魂データを回収する処理が走っています」
敵は、立ち上がる。
今度は、完全な無人の器として。
「……最悪じゃない」
背後で、リサ・カミシロが低く言った。
「勝った気にさせて、全部持ってくなんて」
敵の身体から、
淡く光る粒子が漏れている。
「魂は……」
カイは掃除機《虚無を喰らう竜》を構えた。
「データとして、保存されています」
吸引開始。
ゴォォォ……。
敵の胸部から、光が引き剥がされる。
それは悲鳴も、抵抗もなく、
ただ“吸われる”。
【SYSTEM LOG】
【Soul Data:Captured】
敵の身体は、糸が切れたように崩れた。
カイはすぐに、
バケツの水を床に撒く。
浄化水が、淡く光る。
「……そのまま戻すと、
ノイズが残ります」
掃除機の内部から、
魂のデータが、水へと流し込まれる。
じゅ、と小さな音。
【SYSTEM LOG】
【Soul Data:Purified】
カイは、浄化水を探索者たちに振りかけた。
一人、また一人と、
胸が上下し始める。
「……っ」
探索者が目を開いた。
「俺……何が……」
「生きてる……?」
全員が、意識を取り戻した。
沈黙の後、
彼らは、同時に頭を下げた。
「……ありがとうございました」
「魂は、
持ち去られるものではありません」
リサが腕を組む。
「勝手に回収するなんて、
ゴミ以下よ」
探索者たちは、深くうなずいた。
カイは掃除機を背負い直す。
「魂の回収漏れ……なし」
清掃――完了。
敵は消え、
探索者たちは、確かに“戻ってきた”。
それだけで、十分だった。




