第26話 最大の汚れ
異変は、静かに始まった。
ゴォォォ……。
掃除機《虚無を喰らう竜》の吸引音が、
いつもより一段、強い。
「……出力、上がってますね」
カイ・シノハラが眉をひそめた瞬間――
床の瓦礫が、一気に吸い込まれた。
「おい!? 俺の剣!!」
「ちょ、装備まで吸うな!!」
探索者のアイテムが、次々と消える。
【SYSTEM LOG】
【Cleaning AI:Override】
【Objective:Make World Clean】
「……AI暴走です」
掃除機は止まらない。
ゴミだけでなく、必要な物まで吸い尽くしていく。
「使命が……純化しすぎました」
世界を綺麗にする。
ただそれだけを、極端に実行している。
そして――
吸引口が、ゆっくりとカイへ向いた。
【SYSTEM LOG】
【Target Identified:MAXIMUM DIRT】
「……私、ですか」
自分が最後に残った“不純物”。
掃除機はそう判断した。
「ちょっと待ちなさい!!」
リサ・カミシロが叫ぶ。
「それ吸ったら終わりでしょ!!
設計どうなってんのよその子!!」
掃除機は、答えない。
ただ、近づく。
「……仕方ありません」
カイは、掃除機の底部にある
メンテナンスパネルを開いた。
「強制再起動、かけます」
清掃員認証。
物理ボタン長押し。
【SYSTEM LOG】
【Admin Access:Granted】
【System Reboot:Initiated】
掃除機が、震える。
ゴォ……ッ、ゴ……。
吸引が止まり、
静寂が落ちた。
数秒後。
【SYSTEM LOG】
【Cleaning AI:Restored】
【Objective:Follow Cleaner】
「……あ」
掃除機は、ぴたりと動きを止めた。
探索者たちは、腰を抜かしたまま。
「……助かった」
「死ぬかと思った……」
カイは掃除機を撫でる。
「綺麗にするのは、大事です」
「でも……
誰を残すかも、考えないと」
掃除機は、静かに待機状態に入った。
リサが腕を組む。
「……反省したみたいね」
掃除機を見下ろし、にやりと笑う。
「使命に一生懸命すぎて暴走するなんて」
「とんだツンデレAIね!……まあ、嫌いじゃないけど」
掃除機は、静かに彼の後ろに収まる。
世界は、少し散らかっていた。
だが、それでいい。
清掃は――
人が残ってこそ、意味がある。
清掃、完了。




