第24話 起動コード
ダンジョン中層、崩れかけた儀式跡の広間。
天井の一部が抜け、外光が差し込むその場所で、探索者たちは息を呑んでいた。
床に刻まれた魔法陣が、淡く脈動している。
複雑な紋様と文字列。
ただの攻撃魔法ではないことは、一目で分かった。
「……最強の魔法だ」
誰かが、喉を鳴らした。
【SYSTEM LOG】
【Spell Data:UNKNOWN】
【Warning:CRITICAL】
「詠唱さえすれば、全部終わらせられる……」
探索者たちは分かっていた。
強すぎる力には、代償がある。
だが――それでも、手を伸ばしてしまう。
「俺がやる」
「待て、順番だ」
詠唱が始まる。
その瞬間、カイ・シノハラは走った。
「……起動コードが、そのままですね」
詠唱の途中、口が開いた瞬間!?
バシッ。
モップが、正確に口を塞いだ。
「むぐっ!?」
「すみません」
カイは落ち着いた声で続ける。
「それ、詠唱すると――
世界が停止します」
【SYSTEM LOG】
【Spell Trigger:WORLD_TERMINATE】
探索者の目が見開かれる。
「……冗談、だろ?」
「いいえ」
カイは魔法陣を見上げる。
「魔法じゃありません。
これは“実行命令”です」
モップの先で、宙に浮かぶ文字列をなぞる。
「誰かが、起動コードを
詠唱に誤接続しただけ」
モップが光を払った。
「なので――書き換えます」
柄を、軽く振る。
【SYSTEM LOG】
【Spell Function:Overwritten】
次の瞬間。
脈動していた魔法陣は消え、
代わりに、ぽん……という間の抜けた音がした。
ぷくり。
七色に輝くシャボン玉が、ふわりと浮かぶ。
「……は?」
シャボン玉は、ゆっくり上昇し、
光の中で弾けた。
何も起きない。
床も、壁も、世界も――そのままだ。
「……終わり?」
「はい」
「起動コードを
“無害な視覚効果”に差し替えました」
探索者たちは、言葉を失った。
「……世界を滅ぼす魔法……」
「最強ほど、管理が必要です」
そのとき。
「……ほんっと、馬鹿ね」
リサ・カミシロが腕を組む。
「詠唱したら世界が終わる?
それを“使おう”って発想が怖いのよ」
床に残った、弾けたシャボン玉の跡。
一歩前に出て、靴先で水の跡を踏み消した。
「あんたたちの“最強”も」
「見事に水の泡ね」
探索者たちは、何も言えなかった。
リサは背を向ける。
「夢を見るのは勝手だけど」
歩き出しながら、吐き捨てる。
「世界を巻き込む夢は、清掃対象よ!」
カイは、その背中を見て、モップを担ぎ直した。
「清掃、完了です」




