第20話 感情サーバー
街が、静かすぎた。
人々は歩いている。
仕事もしている。
会話も成立している。
――なのに、感情がない。
探索者たちは無表情でダンジョンを巡回し、
市民は淡々と作業を繰り返す。
笑い声も、怒声も、ため息すらない。
【SYSTEM LOG】
【Emotion Data:Offline】
「……これは、気持ち悪いわね」
リサ・カミシロが眉をひそめる。
「感情を奪うバグ……感染型です」
カイ・シノハラは街を見回した。
「原因は一点集中。
感情データをまとめて処理している場所があります」
「サーバーね」
「はい」
二人は地下へ向かった。
そこには、巨大な装置があった。
街全体から伸びるデータラインが集まり、
赤熱したコアが唸りを上げている。
【SYSTEM LOG】
【Emotion Server:Overheat】
「……熱暴走」
「感情を処理しすぎた結果ね。
バカな設計」
リサが吐き捨てる。
「感情は計算資源じゃないのよ」
カイはバケツを下ろした。
中には、浄化水。
「冷却します」
「ぶっ壊さないの?」
「止めるだけです」
浄化水を、ゆっくりと注ぐ。
シュー……と音を立て、
サーバーの赤熱が徐々に収まっていく。
【SYSTEM LOG】
【Temperature:Normalizing】
【Emotion Data:Restored】
――次の瞬間。
街に、音が戻った。
「……あれ?」
「なんで、泣いて……?」
笑い声。
怒鳴り声。
泣き声。
人々は突然あふれ出した感情に戸惑いながらも、
生きている実感を取り戻していく。
探索者の一人が膝をついた。
「……怖かった……何も感じないのが……」
カイはサーバーを確認し、静かに言った。
「感情は、熱を持ちます」
「だから、冷却が必要です」
リサが腕を組む。
「聞いた?
感情が無いロボットのような世界なんて、効率はいいかもしれないけど――」
一歩、前に出る。
「クソつまんないのよ!」
街を見回し、鼻で笑った。
「怒って泣いて笑って、
それでやっと人間でしょ」
カイはうなずく。
「熱暴走は、危険です」
「ええ」
リサは背を向ける。
「……まあ、戻ってよかったわ」
カイは、何も言わずに歩き出した。
街は再び、騒がしかった。
それが、正常だった。
清掃は、完了している。




