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ダンジョン・デバッガー清掃員 〜世界の不具合を修正してたら神の領域に到達しました〜  作者: やはぎ・エリンギ


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プロローグ

世界は、少しずつ汚れていく


 世界が壊れ始めたのは、誰かがスイッチを押した瞬間ではなかった。  爆発も、警報も、神の宣告もなかった。


 ただ――静かに、エラーが発生した。


 2019年12月31日。  年越しの喧騒に包まれた世界中の大都市で、同時に“穴”が開いた。  地面でも、空でもない。現実の裏側に縫い付けられたような、巨大な縦の裂け目。


 それは、やがてこう呼ばれるようになる。  ――ダンジョン。


 最初は災害だった。  街が壊れ、人が死に、未知の怪物が溢れ出した。  だが人類は、驚くほど早く順応した。


 怪物を倒す者は“探索者”と呼ばれ、  力を持つ者は賞賛され、  ダンジョンは“攻略対象”として管理されるようになった。


 武器が売られ、スキルが研究され、  ダンジョン配信が娯楽となり、  ヒーローはスポンサーを背負って笑った。


 世界は、元に戻ったように見えた。


 ――見た目だけは。


 誰も気にしなかった。  倒されたモンスターの死骸が、どうなっているのかを。


 肉片は消えず、  魔石だけが抜き取られ、  残骸はダンジョンの奥に積み重なっていく。


 放置されたデータ。  参照されないオブジェクト。  解放されないメモリ。


 それらは、ある時点を境に“変質”する。


 ――バグ化。


 通常の攻撃が通らず、  挙動が破綻し、  世界の法則を無視し始める存在。


 探索者たちはそれを「理不尽」と呼び、  「運が悪かった」と言って撤退した。


 だが世界は知っていた。  それが偶然ではないことを。


 この世界そのものが、  巨大なプログラムで動いていることを。


 そして――  エラーは、放置すれば必ず増殖するということを。


 だから、世界は静かに役割を生み出した。


 掃除をする者。  捨てられたものを片付ける者。  誰も見ない場所で、世界を保守する者。


 彼らはヒーローではない。  喝采も、称号も、拍手もない。


 あるのは、モップと、バケツと、掃除機。  そして、左手首に刻まれた一本のバーコードだけ。


 世界の修正率は、わずか0.004%。  このままでは、完全修復までに六十万年かかる。


 それでも彼らは、今日も現場に立つ。


 なぜなら――


 汚れは、放置するのが一番ダメだからだ。


 これは、  誰にも見られず、  誰にも感謝されず、  それでも世界を守り続ける清掃員の物語。


 またの名を――


 デバッガー。

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