・病院にて
目が覚めると、俺はベッドの上で寝ていた。どうやらここは病院のようで、目を覚ました俺に気が付いたナースが医者を呼んで来た。怪我の事やここがどこの病院なのかなど、医者と様々な話をしてようやく現状が分かってきた。
カーテンが開いた窓からの光が俺の半身を照らしつける。なるべく動かないようにと医者から釘を刺されてしまった俺は手持ち無沙汰で窓の外を眺めるしかなかった。そんな中ガラガラとドアがスライドする音がする。振り返ればそこに居たのは、見舞いに来てくれた高田先生と仏谷さんだ。
「元気……そう、ではないな」
「仏谷さん? それに高田先生も」
寝たままでは失礼だと思い、ゆっくりと上半身をあげて二人の顔を見る。
「すまない……蓮也。本来であれば、AKCだけで対処しなければいけなかったのに……お前を巻き込んでしまった。本当にすまない」
開口一番に謝罪する先生は深々と頭を下げたあと俺の目を見た。そんな真剣な目に俺は圧を感じて背けるように視線を下に向けしまい先生の握り拳が見える。再度、顔を上げた俺はもう一度先生の目を見た。
「そんなこと言わないでください、先生。俺は別に巻き込まれただなんて思ってませんよ。それに……今回のことで自分がどれだけ無力なのかを自覚しました」
「蓮也……」
そうだ、俺は……風夏を助けられなかった。リオもただ、不意をついただけだ。俺自身は全然強くない。覚悟が足りない未熟者だ。
「君には話して置かなければいけないことがある」
「なんですか?」
「空山風夏のことだ」
は……? 風夏……? はぁ!?
「風夏!? 風夏がどうしたんですか!?」
「……あの子は今、昏睡状態だ」
「昏睡!? どういうことです!?」
一体何があってそんなことに!? どうして!?
「高田から聞いたんだが、戦闘中に様子がおかしくなったらしい。何か訳の分からないことをブツブツと言いながら、途端に叫び倒れてしまった」
「倒れた……?」
「あぁ……一応、この病院には居るが隔離されている。ナナシの組織にいた奴だからな。念には念を入れて、だ」
それは……どうにもならない。俺には分からないよ、どうして風夏はナナシの組織なんかに? それに、俺のことも覚えていなかったし……。
「そう……ですか。他の、ヤツらは? ナナシの組織はどうなったんです?」
「逃げられた。空山に気を取られているうちに、ルイスが気絶したリオを拾って何処かに行ってしまったんだ。追おうにも空山が邪魔してきてな……」
高田先生は気まずそうに顔を背けて頬骨を掻く。全身をよく見れば所々の仕草が変だということに気づく。仏谷さんも顔や首筋、腕など擦り傷や切り傷が多いのか、いろんな大きさの絆創膏を貼っているのが見えた。
「……先生、お願いがあるんです。それに、仏谷さんにも。聞いてくれますか?」
俺はそう言って静かに切り出した。
「私にも、か?」
「はい、そうです」
「そうか……分かった、話してみろ」
少しの沈黙のあと、俺は言った。
「俺をAKCに入れてください」
「は……? は!?」
「なぜだ? お前はあの学校の生徒だ。別に今すぐにでなくとも近い将来AKCに入るだろう」
理解が追いついていない先生とは反対に仏谷さんは淡々と話の続きを聞いてきた。
「……あいつらは、ナナシの組織は……街をめちゃくちゃにした。それ相応の罰を与えなきゃ……ダメ、でしょう?」
一時の静寂。仏谷さんは口を開け告げる。
「……分かった。一応、上に掛け合ってみよう。運が良ければAKCに入れるかもな」
「ちょ、待てよ! 瑠流!?」
「なんだ、拓哉。文句があるのか?」
「蓮也はまだ学生なんだぞ!? なのに、そんなこと……」
「本人が望んでるんだ、仕方がないだろう?」
「それは……」
言い淀む高田先生。
「あぁそうだ。谷口くん」
「はい、なんです?」
「もう一つ、伝えておかなければならないことがある」
他にも伝えないといけないことが……?
「え〜と……それは?」
「街の崩壊は知っているだろうが……君の通う学校が壊された」
「はい!?」
それは予想外! 嘘だろ! なんで!?
「支部に向かう前、私が電話していただろう? あの時に学校が襲われていることを知り、救援要請があった為に行ったんだ。けれど、なすすべもなく校舎は壊され生徒や教職員の中でも多数の死傷者が出てしまった。結果、ナナシの組織には逃げられ、そして……AKCの育成学校である君の学校は当分通えなくなったのだ」
「……そう、なんですね……」
そんなことがあったのか……。
「ちなみに、このナナシの組織が起こした事件はもう複数回にあたって政府にダメージを与えている。このままでは信頼が失われていくと政府から早期解決を迫られている。そのため、AKCは近々ナナシの組織を一掃するための作戦を立てている」
「はぁ……それが?」
一体何の関係があるっていうんだ。
「作戦に起用できる程の信頼に値する異能力者がAKC内に足りないのだ。だから、過去調査済みの学校生徒や教職員などに声をかけているらしい。……私はその作戦で遊撃部隊を担当することになった。そして、作戦に起用する人物を推薦することができる」
「それって……!」
つまり、俺を……?
「それじゃあ、谷口くん。そろそろ私たちはお暇するよ。ゆっくり休むんだぞ」
髪の毛をワシャワシャと撫でられ別れの言葉を告げられる。席を立ち膝の上に置いていたカバンを肩に掛け、背中を向ける。
「あの……最後に、一つだけ聞いていいですか?」
そんな背中を見てふと疑問を思ったことを聞いてみた。
「なんだ?」
「え〜と、仏谷さんと高田先生って付き合ってるんですか?」
なんか距離感近いし下の名前で呼んでるし……。
「ん? あぁそうだが」
「そう……だったんですね」
「それじゃあ、また来るな。ほら、拓哉行くぞ」
「あっ、ちょ……おい! 蓮也、またな!」
置いてかれそうになる先生を見てまだどこか気を張っていた俺はクスリと笑ってしまう。なんだか気が抜けたみたいだ。そっと上半身を寝かし病院特有の枕に頭を押し付ける。
気がつけば俺は眠ってしまっていた。