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・支部での出来事


 十分ほど走り続けて辿り着いたのは何の変哲もない一軒家だった。本当にここが、AKCの支部なのか?

 疑わしげに見ていると、仏谷さんはドアのフックに掛けられた板を外し手のひらを当てた。数秒後、カチャという音がする。板を掛け直して扉を開けると、ドアの裏にはポストボックスサイズの何やら大きめな機械らしきものが張り付いていた。


「この機械は……?」


「静脈認証用の機械だ。そんな事はいいから早く中に入れ」


「あ、はい」


 扉を閉めると機械が音を立てて動き鍵を閉めた。どうやらセキュリティはしっかりしてあるみたいだ。仏谷さんは目の前にある階段を無視して脇の廊下を進み奥の部屋に入る。

 部屋の中には複数のベッドと引き出しがついた机が置いてあり、学校の保健室を彷彿とさせるような内装をしていた。

 ベッドに高田先生を寝かせたあと、窓が閉まっているか確認をしてカーテンで外を遮った。トントントン、と階段を降りる音が耳に届く。直後、部屋のドアを開けられた。


「仏谷、それと高田やんか。その子が学園の?」


 現れたのは長身の男、膝下まである白衣の裏には様々な色の液体が入った試験管が。白衣の下に着ている水色のワイシャツと黒いズボンはどことなく医者を思わせる服装だった。


「特紗、他の連中は?」


「もう先に行ったよ、ワイは居残りや。そこの先走り野郎の看病もしないといけねぇしよ」


 そう言って白衣の男はベッドに寝転ぶ高田先生を顎で指し示した。


「そうか、分かった。高田とこの子を頼んだぞ」


「頼まれてもなぁ……ワイはそこまで強くないぜ?」


 頭を掻きながらそう返答する男。


「お前はいつも自分を過小評価しすぎだ。もう少し自信を持ったらどうだ? ……それじゃあ、行ってくる」


「ちょい待て、これ持っていきな」


 白衣の裏から取り出したのは朱色の液体が入った小さなボトル瓶だった。投げ渡されたボトル瓶を親指と人差し指で持つ仏谷さんは目の位置まで上げて観察しながら男に訊いた。


「これは?」


「まだ試作品やが、一時的に脳のリミッターを解除できる。要するに火事場の馬鹿力を出せるように成るってこと。副作用は勿論あるが……耐えられそうなやつ数人に渡してる」


「試作品か……また上に怒られるぞ?」


 そう言いながら仏谷さんはどこか楽しげに笑い、小さなボトル瓶をポケットに入れた。


「今は非常事態だし別にええやろ、それじゃ行って来い!」


「あぁ!」


 仏谷さんは勢いよく部屋を飛び出した。それを見届けた白衣の男は寝ている高田先生に近づき舐め回すように身体を見たあと、白衣の裏から複数の試験管を出し中の液体を混ぜ合わせる。


「ワイは特紗薫とくさかおる、AKCに所属している異能力者や。ガキ、お前は?」


 こちらを見ずに会話を始めた彼は、寝ている高田先生の上半身を起こし紫色に変わった液体を飲ませた。


「ガキじゃありません、谷口蓮也です。……あの」


「なんだ?」


 不思議な液体を飲ませた特紗さんは高田先生を再び寝かせ、もう用は済んだと言わんばかりにこちらを見る。


「今、高田先生に飲ませたのってなんですか?」


「……気つけ薬や、もう少ししたら目が覚めるやろ。ワイは二階に居るからそこの奴が目を覚ましたら呼びに上がってこい。じゃあな」


「あっ……」


 声を掛ける間もなく、特紗さんは部屋を出ていった。


 ……静かだ。


 少し……横になろうかな、そう思ってベッドに寝転んだ。天井を見ながら俺は今日のことを思い返す。


 色んなことがあった。転校生が……風夏だったこと。まあ、風夏は俺のことを覚えてなかったけど。

 それに……リオが襲ってきたこと、先生が車で轢こうとしたこと。AKCの人がやって来たり、街が崩壊してたり……ナナシの組織のことも聞いた。


 俺は……結局何がしたかったんだろう? 風夏を守れずに、ただ口先だけで動かなかった。仏谷さんに連れ出されたから、逃げた? そんなことはない。俺は、何も出来ない自分が許せなくて……見たくなくて、逃げたかったんだ。


 だから、仏谷さんについて行った。目を塞いだんだ。……覚悟が足らなかった。それだけの覚悟が、出来てなかったんだ。AKCに入る、それは学園に入る前から決まっていたはずで。異能力者に定められた、法律の一つなのに。

 平和に過ごして、友達と遊んで。人間ごっこをしていたに過ぎなかったんだ。気付かないふりをしてたけど……俺たち、異能力者にはまだ……人だと認めてくれない人がいる。それを見たくなくて、自分たちは人間なんだってアピールしたくて、ただそれだけだったんだ。


 楽しかった。確かに楽しかったよ。でも、それに、それだけに縋ってちゃ駄目だ。見なきゃ、ちゃんと……現実を。

 友達だったリオはもう、いない。居るのは、俺を殺そうとしたリオ。

 幼馴染だった風夏も、いない。居るのは、先生を殺そうとした風夏。

 そうだよ……二人とも、敵なんだ。


 闘わなきゃいけない。何か、しなきゃ。何者にもなれないんだ。自問自答を繰り返して、やっと分かった。俺が、俺としてするべきことが。


 ふと、気付いた。そう言えば、アイツは? トモはどこに行ったんだ?


 不意にカチャ、と音が鳴る。玄関のほうだ。直ぐにベッドから起き上がって、炎を纏い臨戦態勢に。廊下の軋む音が進みこちらへと近づいてくる。

 部屋のドアを開けたのは……さっき助けてくれたチャラい男の人だった。


「おっ! いるじゃーん! ってあれ? なんで炎纏ってんの? 熱くない?」


 敵じゃ、ない? なら……大丈夫か? そう思って肩の力を抜いてしまう。


「あ……はい、熱くはないです……よ? 一応、俺の能力なんで」


「へ〜? あ、ホントだ。良く出来てんな〜、制御が上手いのか? それとも無意識?」


「え……あの?」


 いつの間にか近づいていて、俺の炎を纏う腕を気軽に触ってくる。


「おっと〜、ごみんごみん。自己紹介がまだだったね? 俺ちゃんの名前は砂馬鉄哉さばてつや。気軽にてっちゃんって呼んでくれやっ!」


「はぁ……。俺は谷口蓮也です」


 チャラい。というか馴れ馴れしい。距離感が近いというか……。纏った炎を消して俺は安堵する。そういえば、あの後どうなったんだ?


「蓮也っちだな! おーけぃ!」


「あの、なんでここに? ナナシの組織は?」


「ん? あぁ、逃げてきたんよ」


「え!?」


 逃げてきた!? ってことは負けたって……こと?


「まあ二人相手なら余裕だけど、三人相手だとな」


「三人?」


「そ。えーと、田島と空山だっけ? に追加で男が入ってきやがってよ〜」


 男……?


「そうだ! トモは!?」


 いつの間にか忘れてた! アイツは、どこに行ったんだ!? 戦闘になってから姿を見てない気がするけど……。


「トモ? は分かんねぇけど、襲ってきたヤツはルイスって名乗ってたぜ? 高身長でいけ好かねぇイケメンの外人だったな」


「そう……ですか」


 ルイスって名前……何処かで聞いたような? どこで聞いたんだっけ……。確か……。


「そういや、高田っちは? あぁ居た居た……寝てんのか?」


 鉄哉さんは俺の後ろのベッドに寝かされている高田先生に気付き近づいた。


「えっと、特紗って人が気つけ薬だけ飲ませて二階に上がっていきました」


「そっか。じゃ、もうすぐ起きるんだな」


 そう言ってベッドの縁に座り高田先生の顔を眺めていた。……そうだ、俺は……もう逃げない。何か、何かしなきゃ。


「あの……俺に出来ることって、ありますか?」


「へ? ……ないね。キミに出来ることはない、俺っちたちに守られてな」


「そんな……」


 出来ることはないだなんて……どうして。


「キミはまだ一年生だろ? 戦いの心得も、技術も備わっていない未熟者に任せるほど、俺っちは腐ってないぜ? まあでも、その気概は認めてやるよ」


 そこまで、考えて……?


「あ、ありがとうございます……?」


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