・目覚め
目が覚めれば俺はベッドの上だった。傍らには西野さんが座っていて俺は左手の甲に青い薔薇が咲いているのに気付く。
「おや、気がついたかい?」
「西野……さん……?」
ゆっくりと上半身を起こし周囲を見渡すとどうやら医務室のようで右には複数のベッドが。西野さんの後ろは水色のカーテンに仕切られ見えなかったものの、視界に映った手の甲に咲いていた青い薔薇はサーッと塵のように消え去った。
「身体の調子はどうだい? 立てるかい?」
そう聞かれて俺は腕を軽く動かす。痛みはない。ベッドから降りて床に置かれていた靴を履きゆっくりと屈伸運動をしてみる。
「えぇと……動きますよ」
「それじゃあ、そこの廊下を右に曲がって突き当たりにある両扉の部屋に行ってくれ」
そんな様子の俺を見て安心したのかホッと息をついて指示を出す。
「分かりました」
頷いて部屋を出る。言われた通りに進み両扉を開ければそこに居たのは影夜だった。
「影夜ッ!?」
驚きのあまり思わず叫んでしまう。影夜は気まずそうに頬を掻きながらこちらに目を向けてきた。
「……んだよ」
「お前……大丈夫なのかよ」
さっきの戦闘のおかげで、影夜の気持ちに気付いた。俺は知らなかった。分かってなかったんだ。俺は、友達失格なのかも、しれない。
「悪かったな……」
影夜の視線から逃れるように明後日の方向を向いて気まずさを誤魔化す。
「……なにがだよ」
「俺は、お前を疑ってる」
その言葉で俺は影夜の方に顔を向けた。
「はあ!? まだ言うか!」
影夜は俯いていた。
「でも! でも、お前は嘘を言ってないって分かったんだ」
顔を上げてそう告げる影夜の瞳には闘ったときのような、どんよりと暗いものが消えていて……。
「影夜……」
「今は、それで許してくれよ」
気まずげに頭を掻くのを見て、俺は腰に手を当てる。
「はぁ……仕方ないヤツだな」
「蓮也……」
「そういや、他のやつらは?」
そう言って周囲を見渡せば、逃げてばっかだった天パの少年が奥の方にいた。
「ど、どどど、どうも! あっしは」
「あっ! お前! さっきはよくもやってくれたなぁ!? このボクを負かすなんて……」
近寄ってきた少年に俺の後ろから現れた鋭太が文句を言う。その言葉を聞いて頭を抱える天パ。
「ひぃ~! ごめんなさいぃ!」
「ちょっ! 逃げるなぁ〜!」
走り回る二人を眺めていれば不意に後ろから声が聞こえた。
「何をしてるんだ、貴様らは」
その声で振り返ると、両扉を開けて部屋に入ってきた重斗の姿が目に入る。
「重斗!」
「お前に! 名前を! 呼ばれる筋合いは! ない!」
言葉の節々で俺に怒鳴りながら近寄り、俺を指差す重斗。迫力に驚きながら後退りしてしまう。
「みんな、揃ってるな」
そうして、重斗の後ろから部屋に入ってきたのは……。
「高田先生!」
「胡散臭いヤツもいるじゃん」
いつの間にか鬼ごっこは終わっていたのか近くに居た鋭太が呟く。
「ちっす! みんなよく頑張ったな〜!」
「……試験の合否を発表する」
「姉さん……」
「全員合格だ、不本意だがな」
堂々とそう告げる仏谷さんは重斗を見つめていた。暗にお前のことだと言われ、目を伏せる重斗。そんな姿を見た鉄哉さんが仏谷さんへ苦言を呈す。
「仏谷せんぱ〜い? 私情はだめですよ〜」
「ッ! 元はと言えばお前が!」
「どうどう、落ち着きぃや仏谷。鉄哉もだ、煽るんじゃあない」
「は〜い」
「ハァ……」
特紗さんが場を収め、俺は気になったことを質問する。
「ど、どういうことですか? 全員合格だなんて……」
「元々人手が足りないんや。使える者は使わんといけん。けどな」
そこで一呼吸置き、鉄哉さんが口を開いた。
「上のヤツらは頭が硬いんすよ」
「それで戦場に耐えうる者なのか、確かめてもらったんだ」
次々とリレーのように人を変え高田先生が告げた。
「結果、上の者……ちゅーか鬼童さんは鍛えればすぐにでも戦場に登用できると判断したんや」
「ま、肝心の鬼童先輩は本部の方に報告しに行ったんすけど」
頭の後ろで腕を組み愚痴を吐くように鉄哉さんはそうつぶやいた。
「そんなわけで、だ。今日から君たちはAKCの見習い隊員ということになる」
「同輩となるんや。互いの異能力を知っておいて損はないやろ」
「そのへんの自己紹介は寮に案内してからだな。行くぞ」
寮? と疑問に思いながら部屋を出ていく高田先生の後を追う。




