・瀕死寸前バカ野郎
時間が経てば俺に掛かっていた重圧は解け、意識の無い影夜はどこからかやって来た人型ロボットに連れられた。多分、説明にあった救助ロボットだろう。
にしても、これからどうするか。少しばかり異能力を使い過ぎて異能力疲労がある。安心して休める場所があればいいが……。
商店街を外れてビル群に入ると、その中で一番高いビルが目に入った。そうだ、ビルの中に入ればそう簡単には見つからないだろう。そう思い中に入ってエレベーターを使い最上階へと行く。
チン、という音と共に扉が開く。エレベーターから出て、近くの階段から屋上に出ると貯水タンクが見えた。丁度いい、ここなら周りが見えやすいな。貯水タンクの上で周囲を警戒しながら俺は休憩することにした。
意識を保ちながら数時間ほど身体を休ませる。異能力疲労も落ち着いて身体もある程度動くようになった。よし、そろそろ行くか。
一々降りるのも面倒だし、飛んでいこう。
「『炎の双翼』」
背中から炎で作った翼が生える。病院でのリハビリ中に生み出した技だ。体を身軽に機動力を上げるため、風を受け止め抑える性質を持つ。
俺は貯水タンクの上から飛び降り、ビルの隙間を縫うように滑空していく。すると、試験会場で見た毒舌な少年を見かけた。確か名前は……鋭太だったか。仏谷姉弟の喧嘩を収めたのが印象に残ってるな。
まだこっちに気づいていないみたいだし、このまま攻撃するかな。音を立てずに近くまで空を泳ぐ。そして限りなく近づき……。
「『烈火』、『紅蓮風日』」
攻撃をした。翼にしていた炎を均等に身体へと纏わせ、手足のように動かせる触手を作り出す。その炎で鋭太の片足を掴み上げた。
「何だこれッ!? 炎!?」
逆さになった鋭太は足に巻き付く俺の炎に驚いてコチラを気にする余裕が無さそうだった。上手く行き過ぎて少し笑いそうになるが抑えて話し掛ける。
「それは俺の炎だ。このまま掴んでるだけで腕輪の数字は減るはずだよな」
「炎使いか……チッ」
俺の言葉でコチラを認識する鋭太。舌打ちをしながらもその瞳は俺から繋がる炎の触手を辿っていた。
「手も足も出ないか。やっぱり子どもはこんな計画に参加すべきじゃないな」
「は? ウザ……切断しろ『カザグルマ』」
突然、鋭太の声が低くなり技を繰り出してきた。どうやら地雷を踏んでしまったみたいだな。
鋭太の足に絡めていた炎は二色の折り紙で作るような手裏剣で斬られていた。俺の操作から外れた炎は霧散し、鋭太は縦に半回転し地面へと着地した。
「なっ! 俺の炎が斬られた!?」
「舐めんじゃねえぞ、『二連カザグルマ』」
予想外の展開に驚いている間に一つ増えた二個の紙手裏剣が俺に迫ってくる。
「『煉獄如炎』!? アブねっ!」
纏っていた炎を飛ばしなんとか炎の壁を作るも突き抜けてきた紙手裏剣を俺は間一髪で避けた。そのせいで横に倒れそうになるものの側転の要領で衝撃を逃しながら受け身を取る。やっぱ捕まえ方が雑だったか……。
「ふん! 流石に当たらねぇか」
そう口悪く叫ぶ鋭太を警戒しながら俺は回避の構えを取る。
「なんでそんなオモチャで俺の炎が斬られンだよ!?」
驚きのあまり本音が口から出るけれど、鋭太は意地の悪い笑顔を浮かべて後ろ手で何かを取り出した。
「不満ならコッチの方がいいか? 『塵紙閃光』」
「ティッシュ!? フザケてんのか!?」
取り出したのはティッシュだった。ガチでフザケてんのか!? いや、さっきの折り紙手裏剣も俺の炎を斬ったり貫いてきたし……。まさか……。
複数のティッシュが速度を持ってコチラを襲う。なんとか回避するも、そんな俺を嘲笑うかのように鋭太は続けて技を繰り出してきた。
「『塵紙乱舞』これでトドメだ!」
手で数えられないほどのティッシュが俺へ迫ってくる。これは避けられないな。だったら……!
「『煉獄如炎』! やっぱしダメか! 『紅蓮風日』!」
「防戦一方だなぁ! 炎使い!」
さっきみたいに炎の壁を作るけれど効果なし。火の触手からの熱風で俺の周囲を踊るティッシュの軌道を逸らす。
そうして俺は攻撃を受け流しながら一つの技に集中する。でなければ、コントロールをミスしてしまうからな。その技の名前は……。
「『滅禍葬烝』!」
自分から半径十メートルの範囲にギリギリ収まる高熱度の炎を作り出した。黄色に揺らめく炎は範囲内へと入ってきた異物、ティッシュを焼き尽くす。範囲の指定と炎の熱管理はまだまだ練習が必要そうだな。
「チッ……これだから炎使いは嫌なんだ、『カザグルマ・天雷』」
流石にもう攻撃は来ないだろう、と油断していたらなんだかヤバそうな攻撃が!? 鋭太が手の平を上に向ければ数多の折り紙手裏剣が重なりあって空を覆う。ウッソだろ!?
「なんじゃそりゃ!? 『煉獄如炎』! 痛ッ! クッ! どうすれば……!」
なんとか炎の壁を作るけどやっぱり紙手裏剣は突き抜けてくる。疲労が溜まっている身体を気合で動かし襲ってくる手裏剣を避けるけれどいくつかの紙手裏剣が肩や足に掠る。
「ウザってぇ……『カザグルマ』『カザグルマ』『カザグルマ』! 『カザグルマ』! さっさと倒れろよ!」
紙手裏剣が迫る、迫る。
「うおおぉぉ! 『烈火』! 『常燃腕章』!」
俺はもう一度、身体から炎を沸かし腕へ、拳へと巻きつける。その腕で、拳で紙手裏剣を弾けばそれは地面へと突き刺さった。
「行けッ!『緑葉旋空』!」
「それはさすがに燃えるだろ! 『炎牙斬撃』!」
空中に集う木の葉が渦を巻くように俺へ向かってくる。腕の炎を三日月型に成形し繰り出す。すると予想通り葉っぱは燃えていく。想像以上に燃えていく。
「ハッ! バカめ、引っ掛かったな! 『カザグルマ・天雷』! 『塵紙旋空』!」
燃えれば当然煙が出る。木の葉に何か仕込んでいたのか異常なほど煙が出ていた。視界を遮られ俺は鋭太の攻撃を避けられない状態に。
「うっそだろおまえぇ!? クソッ! こうなったら……『常燃腕章・山吹』!」
高熱度の炎、それは身を焦がすほどのもの。それを腕に巻くのは自殺行為に等しかった。それを分かったうえで、俺はこの状況を切り抜けるために襲い迫る数多の紙手裏剣とティッシュを弾いていく。けれど……。
「やったか……ったく、手こずらせやがって」
結果、俺は倒れてしまった。俺の身体は黄色の炎に耐えきれなかったんだ。
「ハァ……ハァ……」
「お前の数値はあとなんぼだ? ふん、あともうちょっとだな。オラッ!」
「ぐぁッ……!」
うつ伏せの俺に近づき腕輪の画面を見る鋭太。数字を見ては脇腹を蹴られ俺は苦悶の声を漏らす。
「これで……最後、だッ!? なんだ!? クソッ! また来た!」
振り上げた足は俺に降りかかる……そう思っていたが、どこからか小さい石が飛んできた。その小石は鋭太のすぐ横、耳元を過ぎ去っていく。続くように複数の小石が傍らの鋭太に迫る。
「あ、当たらないんだな」
しかし小石は鋭太を捉えられない。声を辿ればそこに居たのはこちらに手のひらを向ける天パの少年。俺は満身創痍の身体で薄く目を開けて現状を把握する。
「お前は……?」
「も、もっと……いっぱいだったら当たるんだな? 『浮遊』、『突撃』」
「ウソだろ!? 『カザグルマ』」
鋭太の疑問には気にもとめず、さらなる攻撃を繰り広げる少年。俺達の戦闘の跡で地面には瓦礫やら小石が散らかっている。
それらを浮かしこちらへ飛ばしてくるその光景はとても恐怖を感じた。鋭太もそう感じたのか、咄嗟に攻撃をする。けれど……。
「『停止』、なんだな。そ、その攻撃はあっしには見えてるんだな!」
折り紙の手裏剣は空中に静止した。
「ボクのカザグルマが止められた!? 動かねぇ! なんだよお前ッ!」
「キ、キミはあっしより軽そうなんだな。だったら……『浮遊』」
異能力が使えなくて驚いたのか、それとも動揺したのか声を震わせて叫ぶ鋭太。天パの少年は鋭太を見て小さくつぶやき……浮かした。
「うおっ!? 身体がッ……!」
「成功したんだな。これで、振り回して叩きつければいいんだな」
「なんなんだ! なんなんだよお前ぇ!」
身体が思うように動かないのかジタバタと手足を動かす鋭太を少年は満足そうに眺める。そして空気を掴むように手を握り、天に掲げては円を描くようグルグルと回す。
勢いをつけて投げるその様は容赦がなくて……。ピクリとも動かない鋭太はまるで死んでいるようだった。
「これで倒せたんだな……? 腕輪確認しなきゃなんだな。うん、ゼロなんだな。そしたら早く隠れるんだな」
まるで何かに怯えているように、そそくさとその場を逃げる少年。やるなら、今しかない、
「『烈火』『常燃腕章』……ハァッ!」
音を出さないよう身体を起こし小さく技名を呟く。火を灯し炎と化した腕で、足音を立てず勢いをつけて飛び掛かる。
「うわぁ!? あ、危ないんだな! 生きてたんだな!?」
天パの少年は俺の拳を受ける寸前で気づき間一髪で避けた。その際に叫んだ言葉へ不満を垂れ流す。
「勝手に殺すな!」
「ひぃっ! に、逃げるんだな!」
「あっ、おい! 待て!」
横に転がるように攻撃を避けた少年は急いで起き上がり俺に背中を向ける。
「待たないんだな! あっしは必ずこの試験を合格するんだな! だから逃げるんだな!」
「『煉獄如炎』!」
逃げられないように手の先から丸い炎を投げて地に落とし周囲に炎の壁を作る。そうすると慌てたように少年は尻もちをついた。
「な、なんだな!? なんてことするんだな! これじゃ逃げられないんだな!」
「うるせぇ!『紅蓮風日』!」
俺の身体はもうボロボロだ。だから、手足のように動かせる炎の鞭を創り出し天パの少年に近づく。
「あ、暑いんだな! 『浮遊』! 『突撃』!」
「そんな小石が当たるかよ! なっ!?」
襲ってくる数多の瓦礫や小石を避けたり炎の鞭で打ち落としたりしていると、当たらなかった小石たちが俺の背後に迫ってきているのに気が付いた。
「『墜落』! さっさと逃げるんだな!」
「懲りねぇなお前!?」
大きめな瓦礫を炎の壁に落としその上を歩いて逃げ出す。俺へと襲い掛かる小石たちを弾き飛ばし少年の背中を追う。
「う、うぅ……痛いんだな……」
そこにはうつ伏せに倒れる天パの少年とその背中を踏んでいる重斗の姿が。
「お前は……重斗!」
「また貴様か」
少年の腹を軽く蹴って仰向けにすると腕輪の数字を見て俺に視線を向ける。
「負けられ……ないん、だな……ァ」
その言葉を最後に天パの少年は気絶してしまう。
「ようやく黙ったか」
そんな重斗に俺は思わず声を漏らす。
「……なんで」
「何か言ったか?」
「……なんでお前は、俺をそんな目でみるんだ」
「そんな目って……どんな目だ」
「まるで羨ましがるように、俺を見てるじゃないか」
重斗の目は酷く暗く沈んだ目で、その奥にあるのはどこか助けを求める光が見えた。
「は……? オレが、おまえを……?」
「そうだよ……」
「ふ……ふざけるな!!! 誰がお前なんかを! 『重拳』!」
怒りに任せ拳を地面に叩きつける。その振動で俺はふらりと立ち崩れそうになる。
「くっ……! 『烈火』! 『紅蓮風日』!」
なんとか耐えて炎を纏い攻撃に備える。
「『疾風蹴雷』」
瞬間目に見えない速度で脇腹を蹴られる。
「ぐうッ……!」
その勢いのまま俺は横に吹き飛ばされる。
「弱い弱い弱い! お前は弱いんだ! だから、だからオレに負けるんだ!」
痛む腹を抑えて俺は立ち上がる。
「負ける……? いいや……勝つさ。絶対に、諦めない」
そうだ。アイツらに、また。また会わなきゃ、ダメなんだ。
「これで終わりだッ! 『重拳』!」
迫る重斗の拳。
「『常燃腕章』!」
身体に纏っていた焔を圧縮して腕に集める。それを盾にして俺は。
「なっ……!」
重斗の拳を弾いた。
「お前が俺のことをどう思ってるかなんて知らねぇ! だから、教えてくれよ。なんでお前は、俺をそんな目で見るんだ」
「ッ! ふざけるなぁ!!! 『エリアグラビティ・フィフス』! 『重拳』!」
直後、俺は倒れ伏していた。視界に映るのはアスファルトの欠片ばかり。
「カハ……ァ……!」
痛みは感じずただただ息ができなかった。それでも、俺は。起きなきゃ。起きて……勝たなきゃ。




