・バトルロワイヤル開始
特沙さんが指差した方角へ進んで行くと、言っていた通り確かに魔法陣がそこにはあった。人数分の魔法陣に各自適当に立つ。すると、どこからともなく鬼童さんの声が響いてきた。
「配置についたな? では……頼む」
「……『起動』」
鬼童さん以外の声が聞こえたと思えば、足元の魔法陣が光り輝き我慢出来ずに手で目を覆ってしまう。気が付けば光は収まっており、覆っていた手を目から退けるとそこは先ほどまで居た場所とは全然違う風景だった。
「は……!? ここは……」
目の前には噴水があり水の音が耳に届く。周囲を見渡せばどうやらここは広場のようで、十字路みたいに前後左右には石畳の道があった。不意に目の端で魔法陣が薄く消えていくのを捉える。
そんなふうに戸惑っているとどこからともなく鬼童さんの声が響いてきた。いったいどこからなんだ? スピーカーなんて見えないのに……。
「そういえば、この鍛錬場の説明をしていなかったな。ここは鍛錬場B、街中での戦闘を考慮し小さな街を再現している」
「街中……」
確かに……瓦屋根の家がたくさん建ち並んでいる。遠くの方には豆腐型のアパートやマンションなどが見えた。近くには俺以外の参加者は居ないようだが……?
「異能力によって君たちは街の中に転移した、バラバラにな。君たち参加者は互いに攻撃し腕輪の数字を減らし合う。数字がゼロになれば脱落だ、救助ロボットが迎えに来るまで大人しく待っていろ」
「なるほどな、そういう感じか」
「それでは健闘を祈る。各自、合格を目指し頑張るように」
それだけ行って声は途絶えた。
「とりあえず……こんな真ん中じゃ見つけてくれって言ってるようなもんだし、物陰に隠れないとな」
家を背にして俺は動き始めた。曲がり角では慎重に顔を出し誰もいないかを確認する。安全が確保されたらそのまま足音を立てないよう進んで行く。
何度目かの十字路を突き抜ければそこは商店街だった。八百屋や肉屋、本屋などの様々な店が道を挟む。ふと、気になって商品である果物を手にとってみればどこか変に感じる。
何が違和感なのかは分からない。重さ……は別に。そもそもこれ食べれるのか? 傍にあったリンゴをかじってみると真っ先に感じたのは苦味。思わず吐き出してしまう。うー……まだ舌が苦い……。
見た目はどう見ても林檎なのに味が伴っていない。まるで偽物だ。これも誰かの異能力なのか?
そんな風に思考しているとどこからか物音がした。それもかなり大きめな音だ。何かにぶつかったような音だったが……。
「うるせぇ!」
この声……! 影夜か!? あっちからだ!
「ふん、図星か」
声のする方へ進んで行くとそこに居たのは影夜と、もう一人……仏谷さんの弟、重斗だった。
「お前に何がわかる!? 知ったような口利きやがって!」
「あれは……」
影夜は怒っているのが見て分かるように歯を剥き出して叫んでいる。そんな影夜は重斗に向かって蹴りや拳を繰り出すものの空振っていた。
影夜の単調な動きは重斗に読まれ、その場から足を動かさず避けられていた。
「そうやって、怒りに身を任せるのが馬鹿だと言っているんだ。『重拳』」
そう言って繰り出された蹴りを片腕で横に受け流し、影夜の体勢を崩して手のひらを腹に当てた。直後、影夜は後ろへとふっ飛ばされてしまう。
「じゃあ! じゃあお前は……俺は、どうすれば良いんだよ? どうすれば良かったんだ!?」
「知るか!」
嘆くように、涙を堪えて劈く。そんな影夜に無情な言葉を掛ける重斗の声も耳に入らず俺は眺めていた。
「何してんだよ……影夜」
アイツは友達だ。クラスメイトで、よく遊ぶやつで……あんな顔をする奴じゃなかったのに。あんなに苦しそうな顔をする奴じゃあ……。
「『重拳』!」
「ケホッケホッ……なんだぁ!?」
重斗は真下へと拳を放ち道を壊した。すると当然土煙が舞う。それを吸った影夜は咳き込み戸惑いを隠せていなかった。
「お前みたいな口だけで被害者面するヤツは嫌いだ」
「そこか! 『阻害影』!」
「なっ……!? 身体が!」
視界が遮られる中で二人の声が聞こえる。時間が経てば立つほど徐々に土煙は晴れていく。
真っ先に目に飛び込んできたのは二人の姿。重斗は攻撃に備えて構えていた。が、どこか妙だった。
目線を下に向け地面を見れば重斗の影に黒い何かが絡まっていた。その正体は影夜の影で、重斗が身動き出来ないように掴んでいた。どうやら重斗の攻撃が裏目に出たみたいだな。
「ハハッ……死ね! お前なんか!」
「ぐぅ……」
動けない重斗に歩いて近づきそのまま首を絞める。苦しそうに声を漏らす重斗を見て、流石にアレはダメだ。そう思って影夜のもとへ走り出した。
「やめろ!」
「蓮也……あと、もう少し待っててくれよ。もう少しで、コイツの数字が無くなるからさ」
「嘘つくな! お前、ソイツを殺そうとしてるだろ!? 俺にはわかる! そんなこと、させない! 気付いてないだろ! 影夜! 『紅蓮風日』!」
炎の触手を顕現させ重斗に絡む影を消し去り、首を絞める影夜の手を離させる。炎で重斗を掴んで遠くの方に安置する。それを見た影夜は邪魔をしてきた俺に叫ぶ。
「何すんだ! お前に何がわかるってんだ!?」
影夜の瞳から滴るのは、涙だった。泣いているのに未だ気づかない影夜に俺は……。
「お前、泣いてるんだよ! そんな顔で、殺させてたまるかよ!」
「は……それは、無いだろ」
自分の頬を伝う雫に影夜は触れた。濡れた指を見て、自嘲するかのように乾いた笑いを浮かべる。
「なんで泣いてんだ!?」
「そんなの、わかんねぇよ!」
「はぁ!? あのなぁ! 俺たち友達だろ!? どうして頼ってくれねぇんだよ!」
何度もお前と遊んだ。好きな子の話とかタイプの話だって、下ネタで一緒に笑い合ったりもした。そんなお前を、友達だと思ってたのは俺だけなのか? どうなんだよ……。
「ハッ! 頼れるわけ、ないだろ!? よりによってお前なんかに!」
「なんで!」
「お前は! お前の友達は! 二人ともナナシの組織だった! お前もナナシの組織なんじゃないのかよ!?」
その言葉で、俺の思考は一瞬だけ止まった。予想外だったから。だって、おかしいだろ? そんなこと思ってたなんて……俺は知らない。
「はぁ……? そんな、そんなの……俺を疑ってるっていうのか!?」
「ああそうだ! だから! お前なんかに頼れねぇんだよ!」
なんだよ……なんだよそれ。ふざけるなよ。
「ふざけんな! 俺が! 俺がナナシの組織だって!?」
「そうだよ! 違うっていうのか!? だったら証明してみろよ! 俺に、勝たせろよ!」
「やなこった! だってお前、苦しいんだろ!? 悩んでるんだろ!? 確かに俺は怪しいかもしれない! だけど……俺はお前の味方だ! ナナシの組織がやっていることは到底許されるモノじゃない! そうだろ!?」
「そうだよ! アイツらは許せない! だからお前の言葉なんて! 信じるに値しないんだ!」
「ハハッ! だったら信じさせてやるよ! お前を倒したあとにな! 『煉獄如炎』発動!」
自身の周囲に炎の壁を作り影夜の逃げ道を無くす。それと共に影の異能力を封じて俺は大きな火の玉を作り出した。その火の玉の名前は『玉陽光』。
「しまっ!?」
「後で必ず話を聞くからな!? 落ちろ! 『玉陽光』!」
手を下ろすのと同時に太陽のような火の玉を落とす。周辺の空気は熱で揺れ動き影夜は玉陽光の下敷きとなった。俺は『玉陽光』の技を直ぐに解き、倒れ込む影夜に近づこうとする。けれど、足が重くて進めない。
異能力疲労か? そう思いながらも段々と身体は重くなる。ついには片膝を地面につかせてしまう。なんだ、これ……異能力疲労じゃ、ない?
「はぁ……まるで茶番だな」
ため息を吐きながら重斗は荒れた道の上をやって来た。膝をついた俺を見下ろして重斗は頭を掻く。
「重斗……」
「名前で呼ばれる筋合いはない。……なんで姉さんは、お前なんかを助けたんだ」
俺が呼ぶと重斗は一瞬だけ顔を歪ませてそう呟いた。その意味が分からず俺は声を漏らす。
「なんだと……?」
「チッ……興が冷めた」
重斗は舌打ちをしてそう口にすると俺に背を向けた。その姿を見て俺は叫ぶ。
「逃げんのかよ!?」
「ふん……弱者を嬲るほど、俺はイカれてない」
「誰が弱者だ!」
「よく吠える犬だな。『エリアグラビティ・サード』」
背中越しに告げられたその言葉で俺の身体は重圧に晒された。肉体は地面に押し付けられ、荒れた地面にヒビが入る。
「グッ!? なんだよ……これ!」
「じゃあな」
「おい! 待てよ!」
俺の叫びも虚しく重斗は去っていった。残ったのは倒れた影夜と倒れ伏す俺、そして荒れ果てた商店街。




