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10/14

・本部へ

「ふぅ……」


 リハビリを終えて滴る汗をタオルで拭きながら一息をつく。といっても、単純に身体を動かしていたんじゃなくて授業で習った格闘技を思い出しながら復習をしていたんだが……。

 まだまだ思い通りに動きはしないか。もっと練習して体に刻み込まないと。ふと、時計を見れば約束の時間が迫っていた。


「やべ、急がないと」


 今朝頃、仏谷さんから連絡があった。迎えに行くからと時間を決めていたんだが、リハビリに夢中で気付かなかった。

 急げ急げ。一通りの準備は終わってるから服だけ着替えるか。病院用の服は脱いで置いておこう。

 忘れ物はないな? 西野さんが待ってる。早くロビーまで行かないと……。


 そうして病院の廊下を音の出ないように走ってロビーへ向かう。少しだけ息が荒くなるけれど、そのままロビーを見渡し西野さんを見つけた。小走りで近づき手を膝に置いて息を整える。


「遅かったね、谷口君」


 座っていた西野さんは開口一番にそう言ってきた。俺は責められているんだと思い言い訳を紡ぐ。


「すみません、居ても立っても居られなくて体を動かしていたら夢中になってて……」


「君らしいな。まあ落ち着き給え、まだるぅちゃんは来ていないんだ。息ぐらいは整えられるだろう?」


 ふふっ、と軽く笑いながら俺に落ち着くように促してくれる。存外優しい西野さんだったが、目を向ければ横の椅子には大きなリュックがあった。


「はい、ありがとうございます。……ところで、その荷物は?」


「これかい? そうだねぇ……治療に必要な医療器具が入っているんだ。他にも様々な異能力に対応出来るようにサポートアイテムも入っている」


「医療器具……ですか?」


 確か、西野さんの異能力は怪我を治せる不思議な花を作り出せるモノだ。医療器具なんて必要なのか?


「僕の異能力を知ってるだろうからそういう反応なんだろうけど、救える命は救っておきたいだろう? 僕の力だけではどうしようもない事態がもしかしたら起きるかもしれない。そんな時、医療器具さえあれば僕は治療が出来る。その為に医師になったんだからね」


「そうか、やれることは多いほうが良いですもんね」


 怪訝さが顔に出ていたのか西野医師が説明してくれる。それを聞いて、なるほど確かにと俺は納得した。


「と、そろそろ出ようか。外に車が停まったようだ。側面にAKCって書いてあるから、多分るぅちゃんだと思うよ」


 一面ガラスの玄関を見ながらそう言うと、立ち上がり横に置いてあった大きなリュックを背負う。荒れた息を整え終えた俺も西野医師と同様に玄関へと歩き出した。

 外の駐車場に停車しているAKCの車へ近づくと、丁度運転席から出てきた仏谷さんと鉢合わせる。サングラスを外しながら腰に手を当てて口を開いた。


「手間が省けた。乗ってくれ」


「それじゃあ僕は助手席に乗ろうかな。谷口君は後ろに乗りな」


「あ、はい」


 西野さんの指示通りに後部座席へ乗り込むと、シトラスの香りがほのかに嗅覚を刺激する。これは……多分、ゆずの匂いかな。


「行くぞ。数十分もすれば本部に着く」


 エンジンを掛けガコッとレバーを動かし前進していった。病院の駐車場を出てからは徐々にスピードを出していくのを窓の外を見て感じる。

 久しぶりに見る外の風景は、懐かしい景色とボロボロの街で。流れていく光景を傍目に車の中は沈黙を貫く。




 窓の外を眺めていると真っ黒な建物が遠くに見えた。そこは周囲を塀で囲まれていた。中に入るには門を通るしかなさそうで、車は門の前で一度止まる。

 窓を開けて、門番をしていた男が近づいてくる。その人へ何かの書類を見せる仏谷さん。彼は一通り書類に目を通しその書類を返してくる。門番は門の横の部屋に入っていく、その直後に鉄の柵が開かれた。そして、その間を縫うように車が突き抜けていった。

 塀の中は案外広くて、少し大きめな駐車場があった。ゆっくりと車を後退させ停車する。


「着いたぞ」


「ここが……本部」


 車から降りて入り口と思わしき場所へ連れて行かれる。見慣れない大きな建物を前に驚きを通り越して感嘆の声が口から漏れた。


「入るぞ」


 仏谷さんの後ろを追うように中に入ると、高い天井と両脇にある階段が目に入った。下を向けば黒いタイルに赤のカーペットが道のように敷かれ、その先は階段へと続いている。横を見ればどこかに繋がっている廊下が見え、へこんだ壁に置かれた照明は俺たちを照らしていた。


「久しぶりに来たけど、やっぱり変わってないねぇ。それで? 試験会場はどこなんだい、るぅちゃん?」


「こっちだ」


 そう言うと右にある廊下を進んでいき、俺たちは追従するように付いていく。突き当たりには両開きの扉があり、仏谷さんは勢いよくその扉を開けた。


「遅かったじゃないか、瑠流」


「うるさいぞ拓也」


 奥にはもう一つ扉があった。どうやら二重扉のようでここはその間みたいだ。黒い部屋の中は少し暖かくて心地良さを感じていると、三日ぶりの高田先生がそこに居た。仏谷さんへ話し掛けるも一蹴されてしまう。


「蓮也……? 蓮也じゃないか!」


 そう声をかけられ見てみれば、クラスメイトの桑田くわだ影夜えいやが先生の後ろから現れた。


「え? はぁ!? なんでお前がここに居るんだよ!」


 思いも寄らない人物に驚愕の声を出してしまう。なんで影夜がここに? なんでだ? いったい誰が連れてきたんだ? まさか。


「すまん、谷口。コイツが強情でな……根負けしてしまった」


「先生……」


 天井からの薄明かりで照らされる高田先生の顔を見れば申し訳なさそうに頭を掻きながら目を逸らされてしまう。そんな俺を見て影夜は口を開けた。


「学校の崩壊に巻き込まれ、目の前で友達が死んだ。俺は何も出来なかった。だから、力を手に入れに来たんだ」


 目の下にはクマがあり瞳は爛々としていて、まるで寝ていないような相貌にどことなく怒りの感情を感じる。


「お前……ホントに大丈夫か?」


「ハハッ……大丈夫だよ」


 乾いたような笑いをする影夜の顔は全然笑っていなくて……。どう見ても、大丈夫じゃない。


「……昔の俺を見てるみたいでな、放っておけなかった」


 俯く俺に高田先生はそう耳打ちをしてきた。それを聞いてバッと頭を上げれば高田先生は真剣な顔をしていて、俺はきっと影夜の状態をなんとかしてくれるだろうと信じることにした。


「ちっす! あれ、もうみんな揃ってんすか?」


 俺たちが来た扉を開けてやって来たのは砂馬さんだった。西野さんと話していた仏谷さんは扉の方に振り返ると砂馬へ返事を返す。


「いいや、まだだが……」


「おっと、紹介が遅れたっすね。彼は仏谷ぶつたに重斗じゅうと、この子も君たちと同じく推薦を願った者だ。よろしくしてやってくれよ?」


 そう言って隣に居た俺と同じ歳ぐらいの男を紹介する。仏谷……? もしかして、仏谷さんの弟? そう思い仏谷さんを見れば険しい顔をしていた。


「オレは別に、よろしくしてくれなくても……いい」


 俺たちから顔を背けて重斗は告げた。そんな彼に砂馬は顔を覗き込み話す。


「そんな事言わないでよ〜、ね? 重斗くん?」


「ウザい。離れてろ、胡散臭いやつめ」


「ヒドッ!? ちょっと〜仏谷せんぱーい、弟の教育どうなってんすか〜?」


 超接近してくる砂馬の肩を軽く突き飛ばし罵る。そんな重斗の対応に姉である仏谷さんに文句を付けてきた。


「……どういうつもりだ、砂馬。なぜ、私の弟をここに連れてきたんだ」


 今まで沈黙していた仏谷さんは話し掛けてきた砂馬へ眉を寄せた表情で訊く。けれど……。


「分かってないっすね〜、仏谷せんぱい?」


「なに……?」


 煽るように声を出す砂馬はチッチッチ、と指を揺らした。どういうことだと意図を聞こうとする仏谷さんだったけど、そこへ重斗が話し掛けた。


「姉さんは、黙っててくれよ。これはオレが決めたことなんだから、口出しするなよな」


「重斗、私はお前のためを思ってだな……!」


 何も言えない……気まずすぎる。段々とヒートアップしていく三人の声はこの空間に響いていく。そんな三人へ口出しする男の子が一人居た。


「ねぇ……うるさいんだけど? 姉弟喧嘩なら余所でやってよ」


 パーカーのフードを外しながら砂馬の後ろから現れたのはどう見ても小学生ぐらいの男の子。身長は低く童顔な微笑ましい見た目とは裏腹に思っていたことを正直に告げる度胸があった。


「あ、そうだった。この子も俺ちゃんが推薦したんだけど……ほら、名前」


薄羅はくら鋭太えいた。あ、別に自己紹介なんてしてくれなくていいよ。どうせボクより弱いんだから」


 砂馬がそう促すとパーカーのポケットに手を入れながら口を開いた。これは……毒舌だな。そう思って内容に呆然としていると砂馬は言った。


「ね? かわいい子でしょ?」


「鬱陶しい、子供扱いしないでくれる? にしても、本当にAKCの人だったんだね。てっきり新手の詐欺師だと思ってたんだけど」


 よしよし、と頭を撫でる手を鋭太は叩き払い砂馬へお前はどう見ても胡散臭いやつだとはっきり話す。けれど、砂馬はニッコリと笑い口を開いた。


「じゃあ、なんで付いてきたのさ?」


「……別に」


 顔を背けて鋭太は返事をする。そんな時、両扉を開けて出てきたのは一人の男性だった。


「皆、揃っているようだね」


「貴方は……?」


「ワタクシは鬼童おんどう宗作そうさく。君たちが計画に起用できるか、試験の合否を決める者だよ」


 現れた男性の名前を聞けば、どうやら試験官のようで……。そういえば、試験って何をするんだろう?


「そんで、試験って何すんだよ?」


 俺と同じ事を思っていたのか、鬼童さんへ話を訊いた影夜。腰に手を当てて不思議そうに顔を歪めていた。


「なんでもありのバトルロワイヤルや」


「特紗さん?」


 鬼童さんの後ろから現れたのはAKCの支部で出会った特沙さんだった。はぁ……とため息を吐きながら俺に話をする。


「また会ったのぅ、ガキ。あんな事があったのに性懲りも無くアイツらに手を出すんか?」


「ガキじゃありません。それに……俺はアイツらにもう一度会わなくちゃいけないんです」


 そうだ、俺はもう一度……行かなきゃいけない。そのために、なんとしてでも試験をクリアしなければ。臆することなく、背けることなく特沙さんの目を見続けた。


「あぁ、そうかい。と、ワイが推薦したこの子も参加するで」


「ど、どうも……」


 特沙さんで見えなかったのか、隣に出てきた天パの少年は俺よりも身長が低く少しぽっちゃりとしていた。


「さて、今から試験の詳細を話す。一度しか言わないからよく聞け」


 そこから鬼童さんは試験について話し始めた。ふむふむ……要点を纏めると、本当に何でもありのバトルロワイヤルのようだ。

 正々堂々戦っても良い。どんなに卑怯な事をしても良いし、奇襲をしても良い。チームは無くそれぞれがそれぞれを倒していく、とのことだ。でも、合格の基準は教えてくれなかった。

 なら、勝たなきゃな。勝てば、確実に合格するはず。


「なるほど……」


 ちなみに意識を失ったら人型ロボットが救助に来て試験場外に連れ出してくれるらしい。


「各自この腕輪を付けてくれ」


 鬼童さんが部屋の壁に近寄りコンコンとノックをすると、一部の壁が回転し出てきた腕輪を参加者たちへ手渡してくる。勿論、俺にも。

 腕輪には小さな画面が付いており数字が出ていた。まるでリンゴマークの会社が出しているような時計みたいだな。


「コレは?」


「今から行く鍛錬場の結界に登録された装置だ。数字は体力のようなもので攻撃を与えられると減っていく。それがあれば怪我を肩代わりしてくれる……が、痛みは緩和しない。では、行くぞ」


 そう言って奥の扉へ手を掛ける鬼童さん。瞬間、眩い光が目に入り瞼を閉じてしまう。手で目線を遮りながら向こうを覗けば、そこは外のようで……。鬼童さんを追うように扉をくぐると一瞬、身体に何かが通り過ぎた気がした。


「なんだ、今の?」


 その違和感に口から疑問の声が漏れ出す。それに答えるように西野さんが言ってきた。


「それが結界だよ、谷口君は感じ取れるんだね。この鍛錬場は……るぅちゃん使ったことあるの?」


「あるぞ。訓練の時、偶にな」


「おっと、お前らはこっちだ。参加者はあっちにある魔法陣の上に立っていろ」


「魔法陣……?」


 特沙さんが指さした方向に目を向けるも魔法陣なんてものは見当たらない。もっと奥の方にあるのか?


「ここでお別れ、か。谷口くん、合格することを祈っている」


「頑張ってね〜! 応援してるよー!」


「はい! 必ず合格します!」


 仏谷さんと西野さんの励ましに気合を入れる一方、影夜の居る場所を見れば高田先生と話していた。


「それじゃあな、無理はすんなよ?」


「分かってますって、先生」


「俺ちゃんあっちだから〜! お二人さん頑張ってよ〜?」


 砂馬さんの声でそちらを向けば、無でようとしてくる手を叩き払いながら虫を見ているような眼差しで砂馬さんへと目を向ける薄羅くん。

 

「ウザい! シッシッ!」


「ヒドッ! 重斗く〜ん、なんとか言ってよー!」


「ふん……」


「ほら行くぞ、砂馬」


「は〜い……」


 砂馬さんが重斗に目を向けるも興味が無いとでも言いたげに鼻を鳴らされる。その様子にガックリと肩を下げる砂馬さんだったが、高田先生の後を追うように去っていった。


「ワイの期待を裏切るなよ?」


「は、はい……!」


 入口の近くで特沙さんが天パの少年に喝を入れているのが目に入る。トン、と肩を叩き西野さんや高田先生を連れ鬼童さんが登って行った入り口横の階段を上がっていく。


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