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・学校

「ふあぁ……」


 学校に向かう坂の途中で欠伸をする。毎朝思うがやっぱり眠いな。学校ってなんでこんなに早く始まるんだ? もうちょっと遅くてもいいのによぉ。


「よっ!」


 元気な掛け声と同時に俺の右肩が軽く叩かれる。後ろからやって来たのは俺の親友、岸島きしじま智博ともひろだった。


「おはよう、トモ。朝っぱらから元気だな」


「お前は逆に元気ねぇな。全く、炎の使い手だとは思えんぞ?」


 軽い掛け合いをしながら道路の端にある歩道を歩く。俺の名前は谷口たにぐち蓮也れんや。トモが言った通り、俺の異能力は炎を生み出し操るというモノだ。


「うるせぇな、能力は関係ないだろ? 熱に強いってだけで朝はよえぇいんだよ」


 そう言って項垂れる俺へ呆れたようにため息をする智博。そんな智博だったが不意に左目を閉じた。


「ん、今日はずっと晴れだな」


「うへぇ……マジかよ。ハズれねぇかな」


「バカだなぁ、俺の未来予知は九十パーセント当たるんだぜ? そんな簡単にハズレるわけねーだろ?」


「けどお前さ、この間の予知はハズしてただろ? 一日中ずっと雨だとか言ってたのに、放課後には晴れてたじゃねえかよ」


「うっせ! たまたま十パーセントが当たっただけだっつの!」


 ちなみにコイツの異能力は今言ったように未来予知だ。未来の出来事が断片的に見えるらしいが、コントロールは全く効かないそうで見える前兆として目が疼くらしい。目を閉じたほうが未来の出来事が見えやすく前兆が来たら目を閉じるんだと。

 ちなみに左目には近い将来が、右目には遠い未来の光景が見えるみたい。右目で見るのとは違って、左目で見るときはその光景がいつのモノか具体的に分かるらしいが……。




「じゃ、オレの教室こっちだから」


 学校の昇降口で靴を履き替えて廊下を歩いていると、話に夢中になっていていつの間にかB組の教室に着いていた。


「はいよ、じゃあまた帰りにな」


「へーい」


 教室の前で別れた俺は一つ奥にあるA組の教室まで行き、ガラガラとスライド式のドアを開けて中に居る友人へと声を掛けた。


「おはよー」


 友人たちと挨拶を交わしながら自分の席に座ると、前の席の少女が突然身体ごと振り返ってきた。椅子の前後を逆に座り、こちらへと顔を向ける。


「おはようさん、蓮也。今日もヒロと来たんか?」


「んぁ、そーだけど? どうかしたのか?」


「いんや、別にぃ?」


「はあ? 最近ずっと聞いてくるけど、なんかあるのかよ。まさか……トモのことが好きになったとかじゃないよなぁ?」


「いや、流石にないわ……。まあでも蓮也はいつもと変わらず元気なさそうやな」


 独特のイントネーションは関西人特有のモノ。少女の名前は田島たじま凛桜りお。出身の大阪を離れて近くの家を借りて一人暮らしをしているそう。ヒョウ柄のスカーフが特徴的な女の子だ。


「うるせ。お前たちは元気だな、全く。トモもリオもなんでそんなに元気なんだよ」


「さぁ? 夜更かしとかしてないからやない?」


「俺も夜更かしはしてないんだが? ていうかリオ、お前の方がゲーセン通いで寝てなさそうに見えるが」


 そう、実はコイツ根っからのゲーマーなのだ。よくゲームセンターに行っては格ゲーで相手のキャラをボコボコにしては楽しむ悪趣味なヤツなのだ。ちなみに他のゲーム、ゾンビゲーのような敵に銃の玉を当てるようなモノでも一寸の狂いなくヘッドショットをするため、かなりやり込んでいるっぽい。

 音ゲーやリズムゲー、ダンスゲーでも高い点数を取るので身体能力もまあまあ高いことが分かる。何度か一緒にゲーセンに行ったがどのゲームでも俺は負けている。

 別に俺が弱いわけじゃない、コイツが強いだけなんだ。ホントだぞ?


「ナハハ、そりゃないわ。いうても店が決めた時間までには帰っとる」


「ちなみにその時間は?」


「せやな……十一時ぐらいやな」


 にっこりと満面の笑みでそう言ってくる凛桜。いやいやいや。


「おっそ! 夜中に片足突っ込んでんじゃねえか!」


「いやぁ、遊んどると夢中になってなぁ。店員に言われるまで気付かんのや」


「おいおい……」


 ハッハッハ、と豪快に笑う凛桜に少し呆れていると教室に先生がやってきた。時計を見ればどうやらもうすぐ朝礼の時間で。

 他のみんなもそれに気づき、雑談をやめて自分の席に戻り出す。もちろん凛桜も前に向き直した。


「おはよう。今日は朝礼の前に転校生を紹介する、入ってきなさい」


 先生が廊下に向けて声を掛けると入ってきたのは黒髪の少女だった。サラサラの髪は腰に届くほど長く、淀んだ瞳に酷く違和感を覚える。


空山そらやま風夏ふうかです。元々は病気で体が弱く、この間まで入院してました。色々とわからないこともありますが、よろしくお願いします」


 ペコリ、とお辞儀をする少女に先生は空いている席へ案内をした。けれど、俺は違うことに気を取られていた。


「それじゃ、朝礼始めるぞ〜。日直」


 先生の声が遠のいていく。俺は知っている、あの子を。

 心臓が、鳴っている。鼓動が、普段よりも早く。そうだ、俺は……あの少女を知っている。

 名前も、声も幼い頃と一緒のはずなのに……違う。仕草も、口調も、髪型も……まるで別人のようで。


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