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三題噺もどき4

綿菓子

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくにじゅういち。

 



 コップを片手に、リビングへと戻ると。

「……なにしてるんだ」

「あ、ご主人」

 机の上に何やら機械を取り出し、それのコンセントを繋いでいるところだった。

 何だ珍しい。何を始めると言うのだ。

「……」

 心なし楽しげに見えるのは、そのエプロンのせいだろうか。

 普段使っているボタンで留めるタイプではなく、紐で結ばれている。それが動くたびにひらひらと踊っていて、まるで尻尾でも振っているように見える。

 そんな事口に出したら睨まれそうなので言わないが。

「……なにしてるんだ?」

 同じセリフを二回もこの数秒の間に言うとは思わなかった。

 こちらの質問を気にもせずに準備みたいなことを続けているので、思わず口をついた。コイツが私の話を聞かないのはいつものことだが……なんだ。

「休憩にしましょう」

 いや、それはいいのだが。何を始めたのか聞きたいんだ。

 コイツなんでこう、テンションが高いと話を聞かなくなるんだ。ただでさえ聞かないのに拍車をかけて聞かない。聞こえてないだろうこれ。

「……」

 机の上に置かれたその機械は、ドーナツのような形をしている。

 丸い土台の上に、ドーナツ型のドームがあると言う感じだ。

 その土台に設置されていた、小さなスイッチを入れると、ぶぉんと、低い音がした。

 いや、ホントに何を始めるんだ。

「ちょっと待っててくださいね」

「……あぁ」

 これはもう、こちらの話は聞かないだろうなと諦める。

 大人しく待っているとしよう。手に持っていたコップはシンクに置き、機械から少し離れた位置にある椅子に座る。入れ違うように、キッチンへと入ってきたコイツは何かを探しているようだった。何を……。

「……」

 低い音がしだしてから、徐々に機械の温度が上がっているようだ。

 少し離れた位置にはいるが、ほのかに暖かくなっている感じがする。あの機械の周辺だけ。

 どことなく見覚えがあるようなないような形ではあるんだが、何せ見当がつかない。

「……」

 座って大人しくしていると、探し物を見つけたのか、何かを手に持ったまま戻ってきた。

 そこに握られていたのは、割りばしの入った袋と。

 私が部屋で食べられるようにと買い置きしている飴玉だった。

 数種類の果物の味が入っているやつだ。

「……」

 もう、何も言うまい。

 私のストックとは言え、基本的にキッチンや食材の管理をしているのはコイツだからな。もう、何も言わない。まだ部屋には残っているしいいさ。

「ん、大丈夫そうですね」

「……なにが」

 機械に手を当て、温度を確かめたようだ。何がいいのかは全く分からない。

 思わず漏れたつぶやきなんて、コイツには聞こえてすらいない。

「ご主人は何味にしますか」

「まずこれが何なのか教えろ」

 割りばしをこちらに一本渡しながら、突然飴玉の味を聞かれたので尚更訳が分からない。

 ホントに何を始めるつもりなのだ。

 一応割りばしを手に受け取りながら、なぜかそわそわと楽しげに飴の種類を選んでいる、私の従者であるはずコイツに訪ねる。

「あぁ、綿あめですよ」

「綿あめ?」

 それは、夏の時期になると子供らがよく持っているあの菓子の事だろうか。ふわふわとした、雲のような菓子。確か、ザラメという甘味料で作っているのではなかったか。しかも機械もそれなりに大きなものだった気がする。少なくとも、こんな小さなもので、しかも飴玉で作るのは聞いたことがない。

「ご家庭で簡単に作れますよっていうやつです」

「ほぉ……」

 いつの間にこんなものを買ったのかは後で問い詰めるとして。

 そういうことなら、俄然興味がわいてきた。あの時期だけにしか食べられないものだと思っていたが、それがこうも簡単に食べられるのなら、楽しそうではないか。

 甘いものは嫌いではない。

「何味にします」

「とりあえず、桃でいこう」

「じゃぁ、苺でいきます」

 それからはまぁ、悪戦苦闘しながら、雲を割りばしに巻き取ったり、しっかりと飴の味がすることに感動を覚えてみたり。

 いつもとは違う、こういうことも、たまにはいいものだ。





「しかしこれ、いつの間に買ったんだ」

「昨日通販で見つけて、今日届いてました」

「また……」

「楽しいからいいでしょう?」

「まぁ、ほどほどにな」













 お題:甘味料・飴玉・ボタン

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