表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

寒いのもたまにはいいか

作者: 大橋 秀人

瞬くと、目の前で白い吐息が夜の闇に吸い込まれていくのが見てとれた。


「星を見るのが好き」と言うからそれなりにロマンチックな気持ちでいたのだが、待ち合わせ場所に現れた君の格好を見た瞬間、自分の認識にズレがあったと思い直した。


「完全防寒で」と言われていたから、頭のどこかで薄々気づいていたものの、「今日は暖かいね」と笑いながら目元まであったネックウォーマーを下げた君を認めた顔はひきつっていただろう。


君は目元以外のほとんどをニットやらダウンで包みこんだ格好でさらに寝袋まで抱えていた。

で、その寝袋に下半身を突っ込んだ状態で今に至る。


「寒くない?」

そう言いながら君はカイロをぼくの鼻に当てて笑う。


寒くないかって?

寒い!

寒いに決まってる。

氷点下のキャンプ場に寝袋ひとつで横たわっているのだから。

足先は常に擦り合わせていないとすぐに感覚を失ってしまいそうだ。


「何?」

寝袋ごしに抱き締めて見るが、やはり体温は伝わってこない。


ムスッとしていると、クスクスと笑いながら君は手袋を片方外す。

そして、僕のも片方。


「あったかい?」

彼女の手はなるほど温かかった。

体は地面にでもなったかのように冷えきっているようで、でも繋がれた手は確かに温もりを育めた。


「ほら、見てごらんよ」

見上げた空にはたくさん星が瞬いている。


流れ星はいつくるのさ。

唇を尖らせると、君はやはりクスクス笑い、首を傾げる。


「ずっと見てたらいつかは」

そんなことを嘯く視線は楽しそうに夜空に固定されている。


何が楽しいと訊きたくなる。

二人分の白い吐息が、止めどなく夜空に吸い込まれていく。


汗ばむくらいに熱を持った手のひらに、意識が集中していく。


僕はだんだん、寒さも、星もどうでも良くなり、自分がどこにいるのかさえも気に留めなくなっていく。


ただ、二人を繋ぐ熱いくらいの手の温もりだけが存在している気がしていた。


寒いのもたまには良いか。

呟くと、やはり君は例の笑いかたをした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
2025年度の一発目から大橋節絶好調ですね! 微妙に思えるような二人の関係は既にお互いの気持ちを認め合っているのでしょうね。 こんなシチュエーションなら寒さも星もどうでも良くなりそうです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ