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シュールガール

作者: 高坂あおい

 とある放課後の河川敷。

 ベンチでくつろぐ女子高生が私を含めて二人。

 まだ9月というのもあって、太陽はなかなか沈むことなく、雲の隙間で粘っていやがる。

 明るいのは結構だが、暑いのは勘弁して欲しい。

 首筋を伝って制服の中に流れ込んでいく汗は、年頃の女子にとって天敵だ。


「こないだ新しい櫛を買ったんだけどさー」


 少し離れた場所から聞こえてくる心地よい金属音と小学生たちの歓声。

 高く舞い上がった打球はとても綺麗な放物線を描き、レフトの守備についてた子の頭を越え、隣にいる真希が投げた水筒のコップの中にすっぽり収まった。

 ポップフライならぬ、コップフライ。


「それで?」

「めっちゃ凄い機能が付いてて……これなんだけど」


 わたしの目の前に差し出されたのは、パッと見は至って普通の髪を梳くための櫛だった。

 試しに手に取ってみても、美容用品――――


 ――――ポチ、ウィーン、ガシャリ。


「でしょ?」

「でしょ? じゃないが?」


 歯から刃にスイッチしたことで、美容用品から凶器に変貌を遂げた櫛もどき。


「真希は人を殺める予定ってある?」

「何言ってんの、瑞希?」

「いやだって、これ誰がどう見ても現代版仕込み杖だろ」

「……わからない」


 私からすれば、何が分からないのか分からない、という感じなのだが、真希にも言い分があるようだった。


「だって、これ美容用品兼調理器具だよ?」

「調理器具? これが?」

「うん。キュウリとかニンジンとか置いて、これを一回手前に引くだけで簡単にスライスできる優良品なわけです」

「その切れ味なら、なおさら凶器では?」


 それ以前に、野菜カッターと櫛を兼用したくない。

 これは私を含めた人類の総意だ。

 髪を梳いたら、ニンジン臭くなった件。

 これ以上の悲劇があるだろうか、いやない。

 

「瑞希はまだこの櫛の素晴らしさを理解していないみたいだね。そこで、お得な追加情報まで教えちゃおうと思います!」

「ほう?」


 頭が野菜臭くなる上に、持ち歩いていれば「銃砲刀剣類所持等取締法」に違反する恐れがある櫛。

 このマイナスイメージをひっくり返す会心の情報は――


「この櫛、実は刃の隙間を広げたり狭めたりできるんだよね。ほら! ほら!」

「…………」


 真希は、私が「ええっ! マジ? スゴい!」なんて言うと本気で思っているのだろうか。

 ここまで来ると、ドヤ顔で刃の隙間を調整している姿が私に対する挑発にしか見えない。

 そして、そこから生み出される感情は怒りなどではなく、暴力性の高い未知なる生物を前にした時のような脱力感。

 要は諦めである。


「わかった。わかったから、その櫛は一旦しまおう」

「ふっふっふ。わかるよぉ? これ見てると欲しくなっちゃうもんね?」


 若干怒りの感情が湧いてきたが、同時に「真希以外に買っている人はいるのか。そもそも、どこにこんなものが売ってあるのか」などという疑問をふと抱いた。

 興味本位で購入に踏み切る人がいるかもしれない。

 しかし、実際にこれを使う人は何人いるか。

 おそらくいない。


「とうっ!」


 その時、高速で縦回転しながら落下してくる物体、いや、人が一人。

 それは上手い具合に着地して決めポーズをとる。


「遅かったね、紗季」

「いやぁ、買い物してたら遅くなっちゃった!」


 それから彼女は「面白いものを見つけちゃって」と続けた。

 刹那、嫌な予感と呼ぶにふさわしい、不気味な感覚が胸を包み込む。

 紗季と真希は違うタイプの変人である割に、好奇心が旺盛な部分や興味を持つ対象があまりにも似ているのだ。

 そして、ちょうど右隣にいる真希が興味本位オンリーで購入したものを私は見たばかり……。


「じゃじゃーん! トランスフォームできる櫛なんだって!」

「あぁ……うん。そう……」

「え! 奇遇だね、紗季! 同じやつ私も買ったんだ!」

「えぇっ! 嘘っ!?」


 こうなってくると、もう私では手をつけることが出来ない。

 例えるならば、高速道路を爆走している車を生身の身体で止めに行こうとするようなもの。

 

「いざ尋常に」

「「勝負!」」


 互いに共鳴して櫛の歯と刃を高速で入れ替えする二人と、その光景に絶望する計三人の女子高生。

 そんな私たちは地域でこう呼ばれている。


 ――シュールガール。

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