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銀の砂漠  作者: 咲彩
1現代-学校編
11/11

9



「俺がお前を殺したんだ」



「え……?」

 血の気が一気に引くのが分かった。多分私の顔色は青いだろう。

「――そんなの!そんなの、違います。だって」

「何が違う?同じようなものだろう!俺が、お前を、」

「違います!!」

 こんな大声を出すことは滅多になかった。どうにかしてスザクさまに伝えないと、と思った。

 だけど。

「……あなたが私を殺したなら、ペコー様はシャーイを殺したのですか」

 スザクさまがハッと震えた息を吐き、顔を背けた。

「違います。結果的に私たちの死はそうなりますが、私たちはそのような認識はしておりません。私たちは、私は」

 ただひたすらに、私たちはあなた方を――皇族を、愛していた。

 場に沈黙が落ちる。そしてふと、気づいた。


「……あの、スザクさま、先程……殺したとおっしゃいましたよね?私を?」

「……言った。俺が、お前を」 

「スザクさま……私、覚えてないです。何があったか」

「……うん?だって、思い出したんだろう?」

 怪訝そうにスザク様が首を傾げた。

「はい。でも、……ところどころ、あの……私……、私って……死にまし……たか……?」

 またもや沈黙が落ちた。

 耐えきれずに私の方が声を上げた。

「あの……、ローレル様って嫁ぎ先と離縁されましたか……?」

「……それはペコー姉上だな。ローレル姉上はご夫君が姉上にべた惚れだった」

「……幼い頃から他国でお勉強されていて、滅多にお会い出来なかったのはマニラ様……」

「それはメレルナ姉上。……マニラ姉上は嫁ぎ先を選び過ぎて、皇族史上最長の嫁き遅れと言われてたはず。……お前、まさか、アンとクラウスのことも覚えて……?」

「あ、いえ。お2人のことは覚えています……。スザクさま。アンリシャールさまとご結婚式……されました?」

「……リゼルのこと、覚えてる?」

「…………どなたですか?あの、ご結婚式は?」

「――逆に何を覚えてるんだよ!」

 耐えきれなくなったのか、ツッコミを飛ばされた。そして目に見えてスザクさまのお顔が青くなっているのが分かった。

 逆に私の顔は熱くなってきた。きっと私の顔は赤いだろう。

 気まずい……。


 場所を移動して、学校内のカフェテリアに着いた。いつもは放課後にカフェとして営業しているが、夏休みはしておらず、比較的古いので人もいなかった。だがこの暑い中冷房はついていて、以外に穴場となっているらしい。スザクさまの受け売りだけど。

 スザクさまは自販機で飲み物を買ってくれた。私は恐縮しながら、よく冷えたミルクティーを選んだ。スザクさまはレモンティーを選んでいて、よく紅茶を準備していたなと、ふと思って、不思議な気持ちになった。

「それで、お前は覚えていることと、忘れていることがあるんだな」

 たくさんの傷がついた、年季が入っている丸テーブルに、2人で向かい合わせに座る。スザクさまが缶のレモンティーをプシュっと開けるのを見て、私もミルクティーを開けた。

 まさか、同じテーブルに座るなんて……そんな気持ちが湧いてきた。

「はい……。あの、すみません。スザクさま」

「別にいい。少しでも思い出してくれたのが、嬉しいよ。……それで、都子?スザクじゃなくて、仁って呼んでくれ。それか堂坂か。俺ら以外に聞かれたら説明しにくいだろう?」

「あっ……すみません。仁……先輩」

「うん。それでいい」

 そう言うと仁先輩は満足気に笑った。

「そういえば、帰りは遅くなると都子のご両親は心配する?」

「いえ、大丈夫です。前もって先輩にお礼を言いたいから遅くなると伝えています」

「そう。……さっき、沙羅と龍斗に連絡した。部活終わったらここに来てって。よかった?」

「もちろんです。……図書室に行く前に、剣道部に寄ったんです。でも、仁先輩がいらっしゃらなかったから、弓道部へ行って、お2人にお会いしました。そうしたら、また話そうと、言ってくださいました」

「そう……。よかった。2人にも世話になったから、お礼を言わないとな」

「はい。……あの、安曇先輩と龍斗先輩は、アンリシャールさまとクラウスさま、ですよね?いつからお知り合いなんですか?というより、仁先輩はいつ思い出したのですか?」

 不思議だった。しかも仁先輩、スザクさまとクラウスさまがご兄弟だなんて。

「……具体的にいつ思い出したのか、覚えてないんだ。いつのまにか、俺はスザクで、ここは日本で、イスファンではない国だと理解した。龍斗は4歳の時だったかな。沙羅の母親と俺たちの母親が仲が良くて、俺と沙羅が5歳の頃、沙羅が家に遊びに来たんだ。その時に沙羅と会った龍斗が高熱を出して倒れて、沙羅も龍斗に会って思い出したと」

「あっ……。そうなんですか……」

 なんてカオスな状況なんだ。

「そう!それで仁が、龍斗と私がかつてのアンリシャールとクラウスだって気づいたのよ!」

 突然背後から声がして、肩を叩かれた。安曇先輩と、龍斗先輩だった。部活が終わったらしい。

 お二人とも同じく自販機で買ったのか、安曇先輩はアイスティー、龍斗先輩は炭酸飲料を持っていた。

「早かったな。終わるの」

「まあね。急いでここに来たし。ところで都子ちゃん、忘れているところがあるんですって?どこまで覚えているの?」

 そういいながらお2人は椅子に座った。

「まだ聞けてない。都子、どこまで?」

「どこまでと言われると……。明確にここまでってわけではなくて、小さい頃みたいにいくつかのエピソードを覚えている感じで……。」

「へえーじゃあ、話していたら、忘れているところも思い出すのかな?私と龍斗のことは分かっていたもんね」

「そういえば、スザクさまとアンリシャールさま、ご結婚式はされたんですか?さっきからずっと気になっていて……」

「え……。したよ……。白のドレス着たし……。スザクは黒の軍服の正式な装束だったし……。じゃあ婚約式は覚えてる……?」

 安曇先輩のお顔が見覚えのある感じに若干青くなった。

「……婚約式……」

「覚えてないな。これは」

「スザクと赤のお衣装着たのよー。好きだったな。あのドレス。一度きりだったから、もっと着たかった!」

「婚約式の時にしか着れない装束だったからなー。あれ」

 そう言って笑い合う2人を私は目をキョロキョロさせて見ていた。

 ……赤の装束の、一度きりしか着てなくて。

「ねえ、都子」

 ずっと黙っていた龍斗先輩が口を開いた。夢見心地に宙を見ていた安曇先輩が龍斗先輩の方を向く。

「殿下方の婚約式の後に、神殿に2人で行ったこと、覚えてる?」

 ……神殿。

 そのまま龍斗先輩は続けた。その顔は険しく張っている。

「中で神官の人たちが片付けをしていて、2人で」

「――ほっ」

「「ほっ?」」

 お2人の声が重なる。私にはある場面が浮かんだ。

「宝石……」

「……ああ……そんなこともあったね……」

 龍斗先輩の顔が緩んだ。どこか拍子抜けしたお顔。つまり、違うということ……?

「龍斗ー。あんまり都子ちゃんせめちゃだめよ?ところで宝石ってなあに?」

 アイスティーを両手で弄びながら安曇先輩が首を傾げる。

「沙羅さん、宝石は別件です。お気になさらず」

「別件の宝石って何?聞いた覚えないなー。ところでお前たち、神殿で何してたの?どういうこと?」

 こちらもどこか張った顔をしている仁先輩。龍斗先輩は何も言わずに顔を背けた。

 その光景を見て思わず笑ってしまった私を許して欲しい。

「――お前は、前は、あんまり笑わなかったな」

 頬杖をついた仁先輩が私の方を見てしみじみと言った。

 その顔を見て、私はまた笑ってしまった。

「そんなこと、ないですよ」



――――



 わしゃあーと衣擦れの音がした。

 その後に息を飲む音も、聞こえた。

 ちょうど他の装飾品を確認していた私は後ろをそっと振り向いた。

 婚約式の装束の中で、スザクさまが寝そべっていた。

「……」

「……何しているのか、聞け」

「……何していらっしゃるのですか。スザクさま」

「……滑った」

 婚約式の装束の波間から、ゆっくりとスザクさまが起き上がった。

 どう転んだらこんな盛大になるのか、見ていなかったのが悔やまれる転び方だ。

「これ、いつも着ている装束と違い過ぎないか?いつもの式典の方が動きやすいぞ」

 単純に主役だからじゃないか?

「スザクさま、あと少しでアンリシャール様がいらっしゃいます。お早く起き上がりくださ……い?」

 装束の、本当は見えるはずのない隙間から、床に敷いている絨毯が見えた。スザクさまの動きも止まる。

「……」

「……」


 どうしよう。


 カツカツカツーと早足の靴音が急に聞こえてきた。

「スザクさま!ごめんなさい。遅れてしまって!」

 アンリシャールさまだ。

 靴音が聞こえた途端、スザクさまは立ち上がりアンリシャールさまを迎え、私は咄嗟にベールを落とした。まだ婚約を終えていないアンリシャールさまは客分なので、『奴隷』の私はベールを落として顔を隠さなければいけない。

「全く待っていませんよ。アンリシャール王女。そんなにお急ぎになられて、何かお茶でも準備しましょう。こちらへどうぞ。マレル、装束の確認を続けてくれ」


 なっ?


 スザクさまが私の方を向き、目配せをした。


「……承知いたしました」


 私に課せられた課題はアンリシャールさまに悟られずに、この装束の破れた箇所を確認し補修をすることだ。顔を顰めたくなる状況なのに、スザクさまのこめかみに流れる一筋の汗を見た瞬間、クスリとベールの奥で笑ってしまったのは気付かれなかっただろう。

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