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9話 街


街に入るとまず一番最初に感じたのは……視線だった。

それもあまり良くない類の物だ。

一瞬俺がゾンビだということがバレてしまったのかとも思ったが、どうやらそういう感じでは無いみたいだ。

その視線は、一直線にリリンの元へと向かっていた。


……どういうことだ?

リリンからあまりよく思われていないとは聞いていたけれど、ここまで来るとそんなレベルでは無いように思える。

街を見渡していると、どうやらここも中世のような雰囲気の場所のようだ。

そして、さっきの廃村と変わらず看板などの文字は一切読めない。

まぁ、異世界なんだろうしそこら辺を考えても仕方が無いだろう。


「それじゃあ着いてきて!」

「………ぁぅ」


俺は自分がアンデッドだとバレないように小声で返事をした。

リリンは俺の手を引いて一直線にどこかへと向かっていく。

その顔には少し影がかかっており、胸が痛んだ。


しばらく歩き続け、リリンはある商店のような場所の前に止まった。


「ここだよ、私の薬を買ってくれるお店!」


リリンはそう言って、足早に扉へと入っていった。


「……こんにちは」

「あぁ、リリンちゃんじゃないですか、こんにちは。」


中からは人の良さそうなおじさんがでてきた。

そこで気がついた。

…………このおじさんはリリンへ他の人のような視線を向けていない。


「それと、そこのあなたは…………。」

「………ぁ」


まぁ、そうなるよな、今までは一人で来ていたのだろうし、それに知らない人が追加されたとなると不思議に思うだろう。

正体がバレてしまうかもと少し焦るが、そこは、リリンが咄嗟にフォローしてくれた。


「あ、おじさん、この子は僕の新しい友達なの! だけど、喋れないから気にしないでね!」

「ほぉ、新しい友達ですか…………それは、良かったですね」


おじさんはにこりと微笑んだ。

なんだ、普通にいい人そうじゃないか。

俺は薬を売っている人こそリリンがこんな生活をすることになっている原因なんじゃないかと思っていたのだが、どうやらそういったわけでは無さそうだ。


じゃあ、なぜ……。

俺がそんなことを考えているとリリンが背負っていたカバンを手前に持ってきた。


「今日も薬持ってきたんだけど……買って貰えますか?」


リリンは随分と下手に出た様子でそのおじさんにカバンの中の薬を差し出す。

そして、不安そうな顔でおじさんを見つめた。


「うぅん、実はまだこの前買った薬が残ってるんだよね……だから、要らないかなぁ」

「そ、そんなぁ!」


……まさか、買って貰えないのか?

かれこれここまで来るのに何時間もかかっている。

帰りのことも考えたら合計で10時間ほどかかるのではないだろうか。

それなのに成果無しだと?


「うーん、いい加減にさ、うちに身売りした方がいいんじゃないかな? そっちの方がリリンちゃんも楽だろう?」

「……遠慮します、僕はやらなくてはいけないことがあるので! そ、それよりも薬を買ってください! どんな値段でもいいので!」

「そうか……うぅーん」


おじさんは心底困ったような顔をした。

それを見たリリンの顔もどんどんと青ざめていく。


「…………リリンちゃんの生活があるのも分かるんだけどね、こっちも商売だから、そう簡単に買う訳にはいかないんだ」

「…………そ、そこをなんとか! お願いします!」


リリンはもうほとんど泣きそうな顔でそう叫んだ。

その瞬間、おじさんの口角がいやらしく上がった。


「…………本当に捨て値になってしまうけれど、それでもいいんだったら買ってあげるよ、リリンちゃんだけ特別にね」

「えっ、良いの!?」

「あぁ、そこまでのお金は出せないけれど、これで少しは生活の足しにはなるだろう?」

「うっ、うん、ありがとう!」


リリンは涙ぐみながらも満面の笑みを浮かべた。


…………ふぅーむ、これはこれは、やってますねぇ。

ちらりと店内に何が売っているか眺めてみる。

…………少なくとも薬のようなものが売っているような様子は無い。

つまり、売り切れている、という事だろう。

なのにこいつはリリンが何とか売るしかないという事につけ込んで薬を買い叩いているのだろう。

ふん、虫唾が走る、クソ野郎だ。

なんとかしてやりたい、だが、それが出来ない己の無力にも虫唾が走る。


リリンはおじさんに作ってきた薬を全て渡し、おじさんは数枚の銀貨のようなものをリリンに渡していた。

あれでどれだけのものが買えるのか分からないが、おそらく酷く少ない金額なのだろう。

だが、無垢なリリンはそうとも知らずに受け取ったお金をキラキラとした目で見つめている。


「そうだ、今はちょうどお昼時だしご飯はうちで食べていっておくれよ、なにか用意させるから」

「うん! ありがとおじさん!」

「君も食べていくかい?」


おじさんは俺に向かってそう言っていた。

こいつの家の飯を食うなんて心底嫌だが、こいつの手の内を探るという意味でも意味はあることだ。

俺は悟られないように呪詛を心の中で捉えながらこくりと頷いた。


「………そうか、じゃあ2人とも、おいで」


おじさんは俺達を店の奥へと招き入れた。








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