6話 リリン
「あぅー、あぅー……」
俺は頭を抱えて唸った。
やっと見つけたって言うのにこのままだと逃げられる……というか戦える人とか呼ばれてぶち殺される。
あー、もうダメだー、おしまいだぁー。
「あぁー、もうダメだー、喰われるぅ………おしまいだぁ……。」
それはこっちのセリフなんだよなぁ……。
そうやって2人であたふたしている時、俺の頭の中に1つの記憶が浮かんできた。
高校時代の家庭科の授業の時の事だ。
確か、赤ちゃんを落ち着かせる方法の様な事を言っていたような気がする。
…………やるしか、無いのか。
俺は意を決して女の子ににじり寄っていく。
「ひぇ……な、なに?」
「あー……」
怖がっている様子を無視して歩みを進め、そしてそれと同時に両手を大きく広げる。
俺の姿が大きくなった事に恐怖したのか女の子は更に萎縮するが、構わず近づいていきそして……。
思いっきり抱きついた!
そう、家庭科の教師は赤ちゃんをあやす時、抱っこするのが1番だと言っていた。
流石にサイズと力的に持ち上げる事は出来ないが、何とか抱きつくことぐらいならできるのだ!
俺のサイズと比較してもこの子はそこまで大きくないので、萎縮してちっちゃくなっている今なら何とか抱きしめることが可能だ。
俺のその行動に対して女の子はどんな反応をしているかと言うと……。
「ふ、ふえぇぇ、く、喰われ…て、ない?」
「あー、うー」
うん、大丈夫だよ、落ち着いてねー。
喰ったりしないからねぇー。
俺は女の子の背中をポンポンしてあげ、少しでも落ち着けるようにしてあげる。
「すんすん、あ、何かお日様の匂いがする……」
「あー?」
それって人間に使う言葉であってる?
あ、いや、人間では無いや。
兎も角、女の子は何とか落ち着いてくれたようだ。
「…………ねぇ、眠り姫、僕の事食べないの?」
「あー! あー!」
俺は全力で首を縦に振る。
食べないというより普通に考えて人間を食べようとは思わない。
その考えはゾンビになった今でもなお健在だ。
僕のその答えに安心したのか、女の子は小さくため息をついた。
「よ、良かったぁー、僕の人生もここで終わりかと思っちゃったよ!」
「うあー……」
「はぁー、びっくりしたよ! まさか眠り姫がアンデッドになってるなんて……」
アンデッド、うぅむ、やはり俺ゾンビになってしまっているのだな……。
まぁ、まず間違いなくなっているとは思っていたけれど、面と向かって言われるとやはり少し来るものがあるな。
俺が傷心していると、少女が目の色を変えた。
先程まで怯えた目をしていたのにそれが一変、キラキラとした好奇心に溢れた子供の目になった。
「それでそれで! 眠り姫はなんでアンデッドになってるの!? それに、なんで僕の事襲わないでいられるの!? というかなんであんな所に……」
「あー? あうー……」
さっきの怯えた様子からのこのマシンガントークに俺は着いていけず、思わず遮ってしまった。
「あ、ごめんごめん、つい気になっちゃってさー!」
「あぅー」
「あ、というか喋れないんだもんね……んー、どうしよう、文字とか書ける?」
「あうあう」
俺は首を横に振る。
「そっかー、うーん、ま、いいや、僕の質問に答えてくれる?」
「あう」
言葉を喋れず、文字も書けないのではこちらから質問するという事は難しい。
むず痒いがあちらからの質問を待つしかないな。
俺は首を縦に振って女の子から離れた。
「あぅ、お日様の匂いが……」
女の子はちょっと残念そうにしていたが流石に抱きついたままだと話しにくいだろう。
それに小さな女の子に抱きつき続けるというのはなんだか文字面からしても犯罪臭が漂ってくる。
あ、いや、そういえば今は俺も小さな女の子なのか…………?
まぁ、いい、とりあえず離れよう。
「……じゃあまずは自己紹介から! 私はリリン、12歳です! 趣味はガーデニング、住んでる場所はここだよ!」
…………どう考えてもワケありだな。
12歳の女の子がこんな所で1人で暮らしているというのは明らかにおかしい。
家族はどうしたのか、どうしてこんな所に住んでいるのか、聞きたいことはいっぱいあるが、声が出ないため聞くことが出来ない。
「眠り姫はどうしてここにいたの?」
「あう?」
「んー、分かんないの?」
「あうあう」
目覚めたらここに居たような感じだったし、記憶だって一切ない。
「んー、じゃあ年齢は?」
「あう?」
「えっと、なんでアンデッドになってるの?」
「あう?」
「……じゃあ何で僕のこと食べないでいられるの?」
「……あう?」
「…………もしかして、何も分からない?」
「…………あう」
僕の返答にリリンはさっきの俺と同じように頭を抱えてしまった。
うぅ、ごめんよ、本当に何も分からないんだよ。
その後も俺について色々事を質問されたが、俺はほとんどのことを答えることが出来なかった。




