51話 3人組の男
人ごみに紛れるようにして立っている三人組の男たちがいた。ボロボロのマントによく見たら剣を隠し持っている。
明らかに普通の村人とは違う物騒な雰囲気を纏っている。
こちらをじっと見つめるその眼光は、獲物を狙う獣のように鋭い。
「…………」
俺はリリンを自分の背に隠すように立った。
とは言っても俺の方が背が低いので隠せてはいない。
「…………どうしよう」
リリンの声はわずかに震えていた。
俺はギリっと歯を噛み締める。
「とりあえず、着いてきて」
俺はリリンの手を取って、人混みの中をすり抜けるように路地裏へと身を隠した。
人が多い所の方が安全かと思うが、俺達程度のサイズ感だと逆に人混みに紛れて犯行がバレない可能性もある。
それに、その拍子にフードが取れたりでもすればいけない。
…………何より、多分俺たちの方が強い。
「リリン、フードをもっと深く被って、背を丸めて」
「う、うん」
リリンは俺の指示に従って目立たないようにする。
俺も身を低くしながら、そっと路地裏の隙間から通りを覗いた。
このままバレずにやり過ごせればそれが一番いいんだが…………。
そう思い息を潜める。
…………が、その期待はすぐに打ち砕かれた。
「おい、ガキども! そこに隠れてるのは分かってんだ、出てこい!」
通りにいた男たちの1人が声を上げ、路地裏の入口に立つ。他の2人もその後ろから剣を抜きつつ続く。
「なぁに、金目の物をよこしてくれりゃ手荒な真似はしねぇよ」
「…………」
俺は一瞬リリンの方を見る。
リリンの目は怯えていたが、必死に何かを耐えているようだった。
…………駄目だ、一瞬戦うという選択肢もあるかと思ったが、そんな事したらリリンの心が持たない。
「リリン……逃げるよ、合図したら一気に走る」
「……うん」
盗賊たちは笑いながら、じわじわとこちらに歩み寄ってくる。
俺はリリンの手を握った。
そして、タイミングを見計らってグッと引っ張る。
「っ! 居たぞ、追え!」
俺達が物陰から飛び出した瞬間、それに気づいた男達が俺達のことを追いかけてくる。
流石に大人の男、しかもそういった家業をしている人間だからかかなりのスピードで追いかけてくる。
だが、俺達はそれに負けないスピードで逃げ回る。
「くそっ、なんだあのガキども、すばしっこいな……!」
路地裏をある程度の時間逃げ回るが、後ろからはそんな声が聞こえる。
「っ、行き止まり…………」
ある路地を曲がった瞬間、俺達は袋小路に当ってしまった。
登るのは…………無理そうだ。
「手間取らせやがって……ちょっと痛い目見てもらうぞ?」
「ひっ…………」
にじり寄って来る男達の言葉にリリンが顔を青くする。
俺は怒りに震えた。
「リリン、ちょっと目を閉じててよ」
リリンの前に立つ。
後ろのリリンの表情は見えない。
だが、どんな感情なのかは分かる。
「ネ、ネムちゃん…………」
後ろから不安で震えた声が聞こえてくる。
「大丈夫、すぐ終わるから」
大人の男、それも俺に敵意を剥き出しにしている人物を3人相手取ったとしても不思議と体の震えは無い。
恐怖の感情はあるのに、それが体には一切出ない。
恐らく、ゾンビの体だからだろう。
「…………ははっ、お前まさか歯向かうつもりか? ガキが舐めた真似しやがって……いいだろう、ちょっと痛い目見せるくらいにする予定だったが……やめだ」
男は剣の切っ先を俺に向ける。
「ここで殺してやるよ!」
その言葉をきっかけに、俺は強く踏み込む。
右手にはこんなこともあろうかと護身用に持っていたナイフが握られている。
2歩程踏み込み1番前にいた男に肉薄すると、男は一瞬驚いたような反応を見せるがすぐに反応し俺のナイフを自身の剣で防ぐ。
くっ、流石にキツいか…………。
戦闘経験のほぼない俺に対して相手は恐らくその手のプロだ。
身体能力だけでみればある程度張り合えるとは思うが、それ以外では全くの素人なんだ、そこで張り合えるとは思っていない。
俺が張り合えるのはゾンビ故の身体能力と、ゾンビ故の恐怖心の無さだ。
痛みを感じない、これは大きなアドバンテージだ。
ナイフを弾かれたにもかかわらず俺はそのままの勢いで男の懐へと入り込む。
「っ!? こ、こいつ!?」
男の腹にナイフを突き立てる。
その瞬間、俺の腹も同様に貫かれたようだったが、関係無しに俺はグリグリとナイフで腹を抉る。
男が苦悶の表情をうかべる中、俺は次の行動に出る。
痛みで動きの鈍った男の剣の柄を逆に俺が握り締め、ナイフを手放しそこに蹴りを入れる。
男は叫び声をあげながら剣から手を離し、後ろへとヨロヨロと後退する。
「あっ、兄貴っ!?」
「大丈夫ですかっ!?」
「なんだあのガキ……狂っていやがる…………」
ふん、なんとでも言えばいいさ。
腹に刺さったままの剣を抜き去り、それを構える。
ナイフよりかは攻撃力がありそうだ。
チラリと後ろを見る。
リリンはガタガタと震えながらこちらを見詰めていた。
「大丈夫、私は大丈夫だから、だから…………心配しないで」
俺は男達へと向かった。




