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5話 赤髪の女の子


いきなり体にのしかかってくる圧力に俺は焦りまくっていた。

先程まで聞こえていた女性の声が振動となって体に直接伝わってくる。

どうやら声の主はこのベットの上に乗っかっているらしい。


「あれ、なんか入ってる?」


やばいですよこれ!?

声はベットに何か違和感を感じているようだ。

そりゃそうだ、小さいとはいえ人が1人入っているんだ、明らかに感触がおかしいだろう。

どうしようと考えようにも、何ひとつとして良案が浮かんでこない。


「……あー、もしかしてまたネズミが忍び込んだのかな?」


どうやら声の主は俺の事をネズミだと勘違いしてるみたいだ。

多分さっき俺の事を噛んできたネズミのことだろう。

というか……また?

え、まさかこんな所に住んでいるのか?

……とにかく、ネズミだと思っているのだったらもしかしたらそのまま放置してくれるかもしれない。

このままじっとしていよう。

こういう時にこの体だと呼吸をしなくても苦しくならないからピクリとも動かなくなるということが出来て便利だ。

俺はその利点も活かして一切動かないように心がけた。


「はぁ、あのネズミ噛んでくるから嫌なんだよねー。」


うん、俺も噛まれたからよくわかるよそれ。


「んー、どうしよう、けど寝たいからなぁ…………。」


あ、まずい、この流れは。

そう思った時にはもう遅かった。

声の主は布団を掴みそして、勢いよく捲り上げた。


「さぁ、どっか行ってもら………って、ぎゃああああああっ!?」

「ぅ…ぁ……あ、あばぁー!!!」


もうこうなったらしょうがない、なんとしてでも逃げるしかない。

布団が捲られた瞬間、俺は込められる限りの力を持って飛び上がり、出せるだけの声量で叫んだ。

ちらりと見てみると、俺にびっくりしたのか、尻もちをついてしまっている1人の赤い髪のボーイッシュな女の子が口をパクパクしながらこちらを見てきていた。

今のうちだ。

この部屋の出口である扉に向かって全力疾走を始める。

丸1日歩き続けていたためかある程度体の使い方が分かり、多少のスピードを出すことができるようになっている。

それでも遅いのに変わりは無いのだが、腰が抜けてしまってるあの子から逃げるくらいなら十分だろう。

何とか扉の前まで辿り着き、ドアノブに手を伸ばした時、さっきの子の声が聞こえた。


「ね、()()()……なんで動いて…………」


その言葉に俺の動きが止まる。

もしかして……彼女は俺のことを知っているのか?

外へと向かっていた足の向きをくるりと変えて俺は彼女の方を向く。


「ぁうあぁ…………あぅぅ?」

「んえ? な、なに?」


"眠り姫……それって俺の事?"そう聞こうとした。

が、全くもって何も伝わっていないみたいだ。

うぅむ、どうしたものか。

少し考えた末、俺は手を動かした。

まずは手と手を合わせ目を閉じ、眠るを再現した。

その後頭の上に手で冠を付けて長い銀髪に手をかけてサラサラと揺らした。

そして最後に自分の事を指さした。


「……あぅ?」

「え、えーっと、あー、眠り姫って私の事? って言いたいのかな?」

「あぅ! あぅ!」


俺は全力で首を縦に振った。

良かった、何とか伝わったみたいだ。

俺の問いに彼女は少し不安そうな表情を見せながらもそれを肯定した。


「う、うん、私が呼んでるだけだけど…………。」

「あぅ……」


さて、思いがけないところで探していたものというか人が見つかった。

今日一日かけて探していて見つからなかったのにこんなにもあっさりと見つかるとは…………。

ともかく、俺が探し求めていた俺の事を知る人間だ、自分が逃げるなんて以ての外、逃げられないようにしなくては。

俺はこの女の子が怖がって逃げてしまわないようにゆっくりと、ゆーっくりと近づいていく。


「…………ひぇぇ、た、食べないでぇ」

「あぅあぅ!」


だめだ、めっちゃ怖がられてる!

さて、どうしたものか…………。

幸いな事にこの女の子は腰を抜かしてしまっているためすぐに逃げられるような感じでもない。

それまでになんとかして俺の意思を伝えなくては。

まずは、とりあえず何とか喋ろうとしてみる。


「あー、あー」


うん、安定のゾンビボイスだ。

その声を聞いた女の子はガタガタと震えてしまっている。

んー、なんか本当に申し訳なくなってきた。

何か使えるものがないかと周りを見渡してみると、古びたペンのようなものがあることに気がついた。

これがあれば字は書けなくとも何とか敵意は無いということを伝える事はできるだろう。


俺は少女の近くの床にペンを走らせた。

まずは、愛の証のハートマークだ。

これで少なくとも敵意はないということは伝わるだろう。

俺は女の子が気づいてくれるようにハートマークを指さす。


「……ひぇ、心臓を食うって…こと? や、やだ、死にたくないぃ……」

「あぅ…………」


はぁ、逆効果じゃないか。

というかビビり散らかしている彼女には何をやっても全て裏目に出てしまうのでは無いのか?

ハートマークを心臓と勘違いしてしまう位だしな。

…………八方塞がりだ。

俺は思わず頭を抱えた。



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