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44話 過去13



…………ネムちゃんも気づいてると思う。

蓋を取って壺の中を覗いた僕は思わず吐き出してしまいそうになった。


…………目が合ったんだ。

いつも僕の事を「お姉ちゃ」と呼んでしたってくれたレイン、そのキラキラした目はとても綺麗で僕は大好きだった。


そんな目が、光を失って僕の事を見つめていた。


それでも、僕は見逃さなかった。

音もならず、ほとんど動きを見せていなかったその顔が、僕の事を見つけた瞬間、微かに動いたのだ。


その瞬間、僕の中で何かがドクンと脈打った。

僕の中にあった2つの何かが激しく燃え上がる。


その時、僕の中で何かが壊れた。


僕はゆっくりと歩み出した。

そして、ママとロイが居た部屋の前まで来た。


「………ママ、レイン、今助けるからね」


そう呟き、扉を荒々しく開ける。

その音に驚いたのか2人は慌てて僕の方を見る。


「…………リ、リリン? 」

「へぇ、リリン、遂にか」


驚いたような表情のママと対象的にロイは僕の事を見てニタリと笑った。

その気色悪い表情に僕の怒りはさらに燃え上がる。


「くくく、やっとだ、やっと成功だ! 実験は大成功! やはり俺の考えは間違ってなかったんだ!」

「ロ、ロイ、何を言ってるの?」

「あぁ、お前はもう用済みだ、死んでいいぞ」


ロイはママの頭を掴んでぶらんと上に持ち上げた。


「お前っ!」


僕は有り余る力で地面を蹴り、ロイからママを取り返そうとする。

その速さはもはや半魔と言えど異常としか言いようがない速度であった。

ロイはその速度にある程度は反応出来ていたものの、僕の攻撃を完全に回避することは出来ない。


「くっ……」


僕の拳がロイの肩に当たると、肉が焼ける音と共にロイは苦痛の表情を浮かべる。

しかし、それと同時に愉悦に顔を歪めた。


「期待以上だ………あぁ、最高だ! 」


僕はわけも分からず湧き出てくる自分の力に少し困惑しつつも、今はこれ以上のことは無いと思い、その力を振るう。

僕の手を見てみると紅い炎が勢いよく燃え盛っており、その光が周りの松明によるオレンジ色の光を呑み込んでいる。


炎は全てを燃やし尽くさんと威力を強めているが、僕は全く熱さを感じず、逆に心地良さのようなものを感じる。

僕はそれを握りしめ、ロイへと向けた。


「くく、今の俺じゃ戦うことは出来ないし…………ふっ、分かった」


ロイはそういうと懐から何かを取りだした。


「っ! その手を離せ!」

「はは、やなこった、それ以上近づいたらこいつがどうなるか分かってるよな?」


ロイは手にした小さなナイフをママの喉元に押し当てた。

喉が締まる声と共にその白い首筋からツーッと赤い血が垂れる。

僕は歯を食いしばって動きを止めた。


「リ、リリン、私は良いから……逃げてっ!」

「おい、うるせぇぞ、堕ちた聖女が」

「っ……!?」

「それにしても、流石だな、あの二人の子なだけある、幼体でここまでの力だとは…………」


笑みを深め、それと同時に服の中をまさぐり出す。


「おっと、変な事はするな? この位の女、すぐに殺せるんだからな?」

「…………」


確かにママは別に強い人ではない。

ロイほどの力がある人が危害を加えようとすればママはその瞬間に絶命するだろう。

それを理解しているから、僕は1歩も動けなかった。


「…………いい子だ」


ロイはニヤリと笑って懐からひとつの薬瓶のようなものを取り出した。

そして、塞がっている片手の代わりに口を使ってその蓋を開ける。


「良いか? そこを動くなよ?」


そういうとロイは中に入っている薬を周りにばらまいた。

避けようにもこれだけ広範囲に撒かれてしまってはそこまで広くないこの部屋ではどうやっても当たってしまうため、ロイの言う通りにその場を動かずに居た。


「くくく、良かった、これだけでも持ってきておいて、やはり油断という物は怖いな」

「…………何をしたの」

「…………さぁ? すぐに分かるだろうさ」


その言葉の真意はすぐにわかった。


何を言っているんだと思った次の瞬間、僕の視界がぐにゃりと歪んだ。

見えている、見えているのに、分からない。

チカチカとして何が起こったのかが不明瞭になる。


僕の中の感情が、暴走する。


「ぐっ…………」


痛い、熱い。

さっきまで何も感じなかったはずの炎が、今は驚くほど熱く、痛い。

さっきまでは自分の1部だと思うほどにコントロール出来ていたものが今になって一切コントロール出来なくなる。


「すごい、凄すぎる!」


僕の姿を見てロイは興奮したように叫び声をあげる。

何が面白いのか一切分からない。

こんなにも、辛いのに。


「助けて…………ママ……痛いよ!」

「っ! リリンっ!」

「おい、黙れって言ったよな、俺は機嫌がいいんだ、水を差すな」

「っ!? けほっごほっ…………」


喉笛に刃が刺さり、ママが咳き込む。


「ママッ!」


僕は痛みと怒りとわけも分からず湧き上がり続ける感情とで頭がぐちゃぐちゃになりながらもママを救うべく1歩、また1歩と踏み出す。

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