39話 過去8
それからの僕に対しての対応を見て、どうやらロイは僕をかなり手厚く保護してくれているということがわかった。
ロイは僕に専用の子供部屋を用意し、さまざま物を与えた。
子供部屋は2階の中央に位置している部屋で、地下室までいたるための扉から1番遠い位置にある部屋であった。
ロイは僕の事をしばらくの間ここに住まわせるつもりみたいだから、その間にママとレインを連れ出して逃げ出そうとするのを防ぐための図らいだろう。
当然、僕は脱走を何度も試みた。
しかし、その度に家に居るメイドやロイに部屋まで連れ戻された。
それに、地下室への扉まで行けたとしても、そこには厳重な鍵がされており、僕の力ではそれを開けたりすることは叶わなかった。
それから僕は何とか自力で行こうとするのを諦め、何とかロイに僕をそこまで連れていかせるという作戦に切り替えた。
ロイは僕がママとレインに会わせてと言う度に、感染症が治るまで待っていろと繰り返した。
納得いっていなかった僕は何度も何度もその事について詰め寄ったが、ロイは上手くはぐらかしてきて、一向に連れて行ってはくれなかった。
僕はそれについて憤りを感じつつも、少し不思議に思っていた。
それはどうしてかと言うと、ロイの目が他の人族と違ったからだ。
普通、人族は僕達のことを蔑むような気持ちの悪い目で見てくる。
それは子供であろうと大人であろうと皆一緒であった。
稀に聖人君子なような性格でも持っているのか憐れみのような視線も向けられるが、それもロイの視線とは違うものだ。
ロイはなんというか……分からないけど、少なくとも今まで向けられた視線の中ではずっといいものに見えた。
だからかは分からないが、僕は少しロイに対しての警戒を解きつつあった。
数週間ここで暮らしてもなんの危害も加えられず、また、僕に対して色々なものを与えてくれていたからというのも要因の一つだろう。
これまで僕に優しくしてくれたのはママとレイン以外に居なかったから、なんだか少し嬉しかった。
それでも頭を撫でられたりするのは何だか気持ちが悪かったから全て回避した。
そんな日々が続いたある日……だいたい僕がここに来てから1ヶ月ほどが経った頃だ。
いつものようにロイと2人でご飯を食べていると、ロイが突然こう言い出した。
「そうだ、リリン、お前に大事な話がある」
「…………なに」
僕はわざとぶっきらぼうに答えた。
警戒は解いていない、そう言い聞かせるように。
「お前が望むならだが…………お前のお母さんにもうそろそろ会わせられるかもしれない」
「えっ、ほんと!?」
今まで取っていたロイへのぶっきらぼうな態度は全て崩れ、思わず今までの僕の態度が出てきてしまった。
しかし、そんなこと気にせずに僕はロイに詰め寄る。
「ほんとのほんと!? ……は、早く行こ、早く会いたいよ!」
「分かった分かった、はぁ、こうなるならもう少し後に言えばよかったな」
「いいから、早く会いに行かせて!」
僕はロイの腕を引っ張りながらそう言った。
話が本当なら今すぐにでも会いに行きたい、そう思ったらもういてもたってもいられなかった。
そんな僕の様子にロイは呆れつつこう言った。
「まぁ、待て、まだ会わせられるわけじゃないんだ、一応感染症の関係で最終確認をしてからじゃないと会わせにいくのは難しいんだ、だから……そうだな、明日の昼ぐらいまで待ってくれるか?」
「いやだ、最終確認ってことはもう結構治ってるんでしょ? じゃあもう大丈夫だよ、というか、僕は感染症にかかっても別にいいから今すぐにでも会いたい!」
「あー、駄目だ、諦めろ」
僕が会いたいと言い、ロイが待てと言う、このイタチごっこは数十分に渡って続いた。
そして、先に折れたのは僕だった。
子供の体力では大人をずっと引っ張るなんてことを長時間やっていれば疲れてしまう。
僕はふくれっ面でロイを睨んだ。
「ごめんって、明日には会わせてあげるから、我慢してくれ」
「…………」
そう言って頭を撫でられる。
なんか手付きが気持ち悪くて嫌いだ。
僕はサッとその手を避けてさっきまで食べていたご飯にもう一度手を付けた。
「そういえば、レインには会えないの?」
「あぁ、申し訳ないが、レインくんはまだ会わせられるレベルに回復していないんだ、申し訳ないけどそっちはもう少し待ってていてくれ」
「…………」
どうしてママだけ回復してレインだけ回復していないのか…………。
単純にタイミングの違いなのかもしれないけど、僕には不満だった。
「それじゃあ、明日まで大人しくしてるんだぞ」
ロイはそう言って自分の部屋へと戻っていった。
まぁいいさ、明日は地下室へ向かうことができるんだ、その時になんとか抜け出してレインにも会ってやれば良いんだ。
病気だってママが作った薬ですぐ治るだろうし、そのまま2人を助け出してこの家から抜け出してやる。
そんな覚悟を持って僕も部屋に戻り、明日の為にも英気を養うため、ふかふかのベットで眠った。




