33話 過去2
そんなある日、ママが嬉しいような、それでいてちょっと悲しい様な顔をして帰ってきた。
「ママ、何かあったの?」
「ふふふ、なんだと思う?」
ママは僕たちと話す時になるとその前がどんなに辛そうな顔をしていたとしてもすぐに笑顔になってくれる。
僕達と話すのが本当に楽しいという事が伝わってきて、僕はその顔が大好きだった。
「レイン分かんなぃ! 教えて!」
「あ、ずるい、僕も教えて!」
「はいはい、分かってるわよ」
詰め寄る僕達をママは軽くあしらう。
「なんと、これから私達にあたらしい家族ができるの!」
「「えー、やったー!」」
あたらしく家族ができる、つまり赤ちゃんが生まれるという事だろう。
今日は珍しくママが1人で日中に何処かへ出かけて行ったから何があったのかなと思っていたけれど、恐らく診断を受けに行っていたのだろう。
魔族の子を産んだとしてママも多少は差別されていたけれど、それでも人族ということに変わりは無いのでそこまでの差別はされていなかった。
それに、ママは容姿が綺麗だったから印象も良かった。
だから病院とかに行っても一患者として特に変な事をされたりはせずに診察してくれる。
だけど、そこに僕たちが加わると話が変わってくる、だからママは一人で行ったのだろう。
あたらしい家族が出来るということがママにとってどれほどの負担になるかということは当時も幼い頭ながら分かっていた。
だからそこまでの力にはなれないけれど、せめて少しでも力になれるように精一杯頑張ろう、とその時僕は決意していた。
その夜は少し豪華なご飯を食べて寝た。
それから子供を産むための準備などでお金がかかるからという事でママは仕事の時間を増やした。
元々体を壊してしまうくらいの仕事量はしていたのに、それに加えてさらにしていたから、本当に心配だった。
何より、力になれないことが悔しかった。
それでも、家族一丸となれば乗り切ることが出来ると、そう思っていた。
…………全てが狂い始めたのは、それから数ヶ月が立った時の話だった。
「…………ただいま」
玄関からやけに沈んだママの声が聞こえてきた。
何かあったという事はすぐ察することが出来た。
ちょうど薬草についての本を読んでいた時だったが、その本を投げ捨て急いで玄関へと向かった。
玄関へ向かうとそこには…………ボロボロのママがいた。
体は傷だらけになり、よく分からない汚れのような物が着いていた。
顔は異常なまでに暗くて、いつものママのあの明るさは消え失せていた。
「ママ、大丈夫!?」
「…………うん、ママは大丈夫……だけど……」
ママの声は僕と話す毎にどんどんと震え、目には涙が溜まっていった。
「……赤ちゃんが……まだ名前も決めてなかったのに……」
「そんな!?」
かなりのショックであった。
家族みんなあたらしい赤ちゃんが生まれるのをいまかいまかと待っていた矢先の出来事だ。
本当に悲しかった。
ママをこんな事にしたのは誰なのか、聞きたかった。
だけど、ママは僕の横を通り過ぎて、奥の部屋へと行ってしまった。
「ママ…………」
「ごめんね、今はひとりにして欲しいの……ご飯は昨日の残りがまだあるはずだから、それを食べて…………ママは……疲れちゃった」
意地でも引き止めた方がいいというのは分かっていた。
だけど、ママの初めて見るこんな様子に、僕は驚いてしまって、それ以上言葉が出てくれなくなってしまった。
「お姉ちゃ、ママどうしたの?」
「…………」
僕は無言でレインを抱きしめた。
なんて言っていいのか分からなかったのだ。
こんな感情初めてだった。
「……決めた、ママもレインも僕が守る! 僕、強くなる!」
「おー! お姉ちゃ、かっこいい!」
幼いながらにそんな事をその時決意していた。
……だが、そう上手くいくものでもなかった。
その日を境にママは笑わなくなった。
今まで僕達と話していた時の笑顔は無くなり、代わりにごめんねという言葉を残した。
それが、たまらなく辛かった。
何とかママを元気付けようにも外に出る事が出来ない僕にはそれほどの事は出来なかった。
だから、僕はそれから勉強をさらに頑張った。
ママが笑わなくなってからうちはどんどんと貧乏になっていった。
その頃からママは夜のお仕事にいかなくなった。
昼と夜の仕事で何とかお金を稼いでいたのに、その半分が無くなった今、家にはお金が無くなっていった。
だから、僕はお母さんの昼の仕事である薬屋さんのお勉強を頑張った。
元々薬草の本とかは見てたけど、何となくでしか見ていなかった。
だけど、その頃から本格的にそれを学ぶようになった。
ママから物覚えがいいとは言われていたけれど、こういったものになると難易度が別格で、どれだけ頑張って勉強しても少ししか覚えることが出来ないことに憤りを感じていた。
それでも、僕は頑張った。
ママを、レインを、僕たちの幸せな家庭を守る為に。




