30話 修行
それからというものの、俺たちの生活はガラリと変わった。
ネロの家から持ってきた食料もあるため、しばらくの間は食料には困らなかった。
しかし、薬を売る必要が無くなった為、その分の薬が余ってしまっていた。
もしかしたら賞味期限的なものがあったりすれば無駄になったりしてしまうのでは無いかと思ったりしたが、実際はそんなことは無いらしい。
正確に言うと性質が変化するらしい。
どういうことかと言うと、薬は周りの影響を受けやすいものらしい。
作った段階ではそのままの効果が出てくれるのだが、それから時間を置くと性質が変化し、効果が強まったり、別の良い効果が出ることもあるらしい。
ただ、逆に効果が弱まったり、別の悪い効果が出るようになることもあるらしいので、安定性を求めていたこの前まではあまり放置したりはしていなかったらしい。
しかし、今はもうお金の心配もなくなったので、そういった実験的な事をやったとしても何も問題がない。
そのため、今は修行のために作ったりした薬はその殆どを放置している。
また、それでも有り余るほどの量の薬が余ってしまうので、それは俺の体に使われている。
進化したことによって力はかなり強くなった。
ただ、どういう訳か体は細いままなのだ。
一番最初のあの病的な細さに比べれば幾らかはマシになりはしたが、それでも細い事には変わらない。
ご飯はそこら辺の毒草をかなりの量を食べているのにだ。
リリンはこれが喉が治ったことと同様に薬を使えば何とか治るんじゃないかという事で、身体中に薬を使ってくれているのだ。
別にそんな全身に使う必要は無いんじゃないかと思ったが、こんな体だからか身体中の至る所に傷などがちらほらとあったので、それを治したいと言うことらしい。
別にそんなのどうでもよかったのだが、リリン曰く
「女の子なんだからちゃんとしなきゃだめでしょ!」
と言うことらしい。
どうやら薬の回復効果には美肌効果もあるらしいし、リリンは本気で俺の事を可愛くしようとしてくれているらしい。
うーん、なんだか複雑な心境だ。
元が男であったため、自分が女の子になってその上可愛くなっていくというのには少し抵抗があるような気がする。
ただ、これも元の体の持ち主のせいなのか分からないが、可愛い服を着たり、肌に艶が出たりすると、なんだか嬉しく感じてしまうのだ。
…………まぁ、リリンも楽しそうだし、俺はそれでも良いか。
リリンとはそれからネロの食料がほとんど無くなるまで修行を続けていた。
こうやってある程度長い期間一緒に暮らしていると、何となくリリンの事についても知る事が出来た。
リリンはあまり過去の事を話したがらないので、そう言った話についてはほとんど聞けなかったが、その様子から見て過去になにか非常に辛いことがあったのは確かだろう。
そして、そのせいなのか、リリンはとても甘えん坊であった。
出会ってすぐの時からあれだけべたべたくっついてきていたからそうなのだろうとは思っていたが、その当時はずっと孤独であったためその反動でこうなっているのだと思っていた
しかし、どうやらそれだけでは無いらしい。
少なくともそのレベルの甘え方では無い。
リリンは何をする時でも俺から離れようとしなかった。
そのせいで何度気まずい思いをしたか…………。
ともかく、リリンの甘えん坊は弱まるどころか日を追う事に強まっていった。
まぁ、それはそれで愛らしいため良いんだけどな。
そして、そんな日々も今日で終わりを告げる。
「よーっし! 今日の分は終わり!」
「お疲れ様」
俺は労いも込めてリリンの頭を撫でてあげる。
リリンは本当にこれが好きみたいだ。
「それで、もうそろそろ作れそう?」
「んー……分かんない、かな。今持ってるお金だと2回分は買えると思うから、それで何とか作るしかないと思う…………もう行こっか」
「うん、もう食料も尽きてきたし、タイミングとしてはいいと思う」
リリンの修行と同時にある程度俺も薬学について学んでいたため分かるが、おそらくリリンは天才と言うやつなのだろう。
まず、普通に薬を作る時にも魔力というものが持っていかれるらしい。
なので、普通の薬師だとそう何個も何個も作ることは出来ないらしい。
だが、リリンは子供の身にありながらもその薬を何個も何個も作ることが出来ている、それだけでもその膨大な魔力量を伺うことが出来る。
それに、普通は何個も何個も作っていればその中に何割かは失敗作が混ざるらしい。
だが、リリンはそういったことは無い。
まさに、凄腕の薬師だ。
エリクサーについてもある程度学んだが、おそらくリリンなら作ることが可能だと俺は思うことが出来た。
「んー、けど、まだ一番の問題が残ってるんだよね…………」
「一番の問題?」
これだけ準備が整っていて何が問題なんだろうか。
お金もあるし、エリクサーを作るための技術だってある、これ以上は無いと思うのだが……。
「…………僕、人族のところに行くのは難しいと思うんだよね」
「…………あ」
まじか。




