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25話 襲撃された街


翌日、早速俺たちは家を出発した。

リリンはいつもよりも少し大きめのカバンに2日分の薬を入れて、張り切った様子だった。


「この量だったら結構な値段になりそうだね!」

「…………うん、そうだね」


昨日売れなかった分が残って居るだけなので、儲かっている訳では無いのだが、それを言うのは野暮というものだろう。

リリンが楽しそうにしているのだからそれでいいのだ。


道すがらそこら辺になっている木の実や果物などの食べられる食料を少しずつ採り、元々リリンが使っていた少し小さめのカバンを俺が譲り受けその中に入れていく。

前々からこういうことはやっていたらしいのだが、あまり採ってしまうと荷物になってしまうのと、多少の時間がかかるため、リリン一人の時はそこまではやっていなかったそうだ。

しかし、今は俺という荷物持ちが居るため、限度はあるとはいえある程度の量なら運搬することが出来る。

まぁ、だからといって馬鹿みたいな量は運べないがな。

一応そこら辺の草などはつまみながら歩いているので、力が出なくなるということは無いが、だからといってそこまで力は無い。

それに、俺が薬草のお世話を手伝えるということも分かったので、少々遅くなったとしても寝る時間はある程度確保出来るようになったのもこの行動を可能にした要因の一つだ。

草をつまみながら歩いているのもあって体は以前よりもだいぶ動かしやすくなったが、リリンが変わらずくっついているので昨日と同じくらいの速度で街へと向かっていった。


「リリン、どう? 変な匂いする?」

「んー、ちょっとだけ?」


そんなこんなで前回引き返したところ辺りにもう一度着いた時、俺はリリンにそんな質問をした。


「薄まってる感じ?」

「多分そうかな!」


そうか、ならば危険は無くなったのかもしれないな。

もしかしたらちょっとした火事でも起きていたのかもしれない。

そのくらいならそこまでの危険は無いだろう。

しかし、それ以上の何かが起こっていることも考え、そこからは慎重に進んでいく。


俺たちは街が視界に入る場所まで進んだ。


「なに、あれ…………」


リリンが愕然とした様子で街を眺めている。


それもそのはず、この前見た街とは一変して、そこらじゅうの建物がボロボロになっており、以前感じた視線も一切感じなくなっている。

人がどこにも見当たらないのだ。

更に目に付いたのは、所々に付着している血痕である。

何かが起きた、というのは間違いが無さそうだ。


「ど、どういうこと?」

「…………とにかく、警戒しよう」

「う、うん」


街の荒れ具合から見ても何かがあったのは間違いなさそうだ。

街の人達が何らかの理由でどこかへと行ったと言うよりは何が襲撃のようなものにあってその結果人が居なくなってしまったと言った様子だった。

家の所々には燃えたあとや、現在進行形で少し燃えている場所もある。

…………炊事などに使う火が燃え広がったとは考えにくいほど至る所が燃えているので、恐らく人為的に燃やされたのだろう。

誰がこんなことをしたんだ…………。


「あっ、そうだ、おじさん!」

「…………ネロ?」

「うん、無事だったらいいんだけど…………行こ!」

「分かった、行こう」


リリンが焦った様子で腕を引くので、俺もそれに続き、音を立てないように走り移動した。

ネロの店の前もやはり荒らされている。


「おじさん、無事!?」

「あっ、リリン、駄目」

「んむっ!? …………な、なに?」

「まだ何があるか分からない、危険だから」

「あ、そっか、ごめんごめん」


襲撃者がここから離れているとも限らない。

見たところもうここには居そうになかったが、近くに居た場合、大きな音を出せばこちらに気が付いてこっちに来てしまうかもしれない。

余計な危険は出来るだけ排除しておきたい。


「……一旦入るよ」


俺はリリンの手を引きネロの店に身を隠す。


店に入った瞬間、俺とリリンはその場に立ち尽くし、言葉を失ってしまった。

…………そこにあったのは血溜まりであった。

しかし、そこにはネロの姿は無い。


「っ、おじさんはどこに?」

「…………見て、この血、奥の方に続いてる」


血溜まりはキッチンの方へと続いていっている。

…………この血の主はおそらくそっちへと向かったのだろう。


「…………リリン、覚悟決めてね」


ここから現れる光景は小さな子供にはあまりにも残酷な光景であると俺は確信している。

だが、ネロと関わりがある以上、この先の光景は見なくてはならない。

俺だけで見てくるのでもいいのだが、それはリリンが許さないだろう。


「見たくないなら目を瞑っててもいいから、私が何とかする」

「…………大丈夫、きっと生きてるから、早く行こうよ」

「…………そう」


リリンは強い子だ。

自分の知り合いがもしかしたら死んでしまっているかもしれないという状況で、ここまで冷静に行動出来るというのは大人でも簡単に出来ることでは無い。


リリンの覚悟を無駄にしない為にも、早く行こう。

俺はリリンと手を繋ぎながら、その先へとすすんでいった。


…………この時の俺は、感じていた体の震えを、心のざわめきを、単なる恐怖によるものだと思っていた。



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