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23話 味


「じゃぁ、リリンが食べるものは無いの?」

「んー、無いわけじゃないけど、少ないんだよね」

「…………そうなんだ」


うーん、さっきすぐに帰ってしまったのは少し早計だったかな?

危険かもしれないのに行くのは少し良くなかったかもしれない。

ただ、実は別に危険はありませんでしたってことも有り得るだろうし、やはり一旦様子を見に行った方が良かったのだろうか…………。


まぁ、後悔ばかりしていても仕方がない、今出来ることを精一杯やらなくては。


「じゃあ、早くご飯探そ?」

「うん! 僕ももうお腹減っちゃったからね、いいなぁ、ネムちゃんは美味しいものいっぱい食べれて…………」

「う、ごめん」


リリンが美味しいご飯を食べれなかったのは半分くらい俺のせいと言っても過言では無い。

危険な可能性があったとはいえ、リリンの貴重な食事のチャンスを奪ったということに変わりは無い

育ち盛りの子供にとって食事というのは本当に大事なものなんだ、それを俺は奪ってしまったのだ。

なんて償えばいいか…………。


「冗談だって! ネムちゃんだけでも美味しいご飯食べれるなら僕は幸せだよ! 僕も探せば美味しいもの食べれると思うから気にしないでよ!」

「…………ん、わかった、ありがとう」


何この子、いい子すぎん?

うぅ、いい子すぎて更に罪悪感が生まれてしまった…………。

もういっその事ボコボコにしてくれた方が楽なんだが…………まぁ、痛み感じないけど。

しかも、更に罪悪感を増大させる事象を俺は持っていた。


「…………けど私味わかんない」

「うぇ!? そうなの!?」

「うん」


俺だけでも美味しいものが食べられれば幸せと言ってくれていたのにも関わらず、俺は食べ物を美味しく食べることは出来ないのだ。

味蕾が死んでいるのか、はたまたそこまでを繋ぐ神経が死んでいるのか、俺には分からないが、とにかく味覚は無くなってしまっている。

アンデッドの体になってからというものの五感というものがかなり落ち込んでおり、まともに機能しているのが視覚と聴覚くらいになっている。

触覚も著しく感度を落としているため、ほとんどの神経が死んでしまっているのかもしれない。

本当に、なんで動けてるんだよ。


「うーん、一旦舌見せてもらえる?」

「分かった」


流石リリンだ、これも見たら少し分かるかもしれない。

本当に子供なのかと疑う程だ。

…………本当に子供だよね?

12歳って言ってたけど、この世界の1年が俺の世界の5年だったりとかしないよね?


「ネムちゃん、舌出してー? 見れないよー」

「あ、ごめん、んぇ」


舌をぺろんとリリンの方へと出す。

リリンは俺の舌にちょっとだけ触れたりしながらじっくりと観察していた。

…………ちょっと恥ずかしい。


「んー、やっぱ死んでるね」

「ん、アンデッドだから」

「あはは、だよねー」


まぁ、リリン曰く少なくとも舌は死んでいるらしいし、それが味のしない一因なのだろう。


「多分ポーションとか使えば治ると思う喉もそれで治ったしさ! じゃ、早速家に帰って…………」

「待って」


俺は思わずリリンを止めた。

味が感じられないというのは少々困ったことではある。

味が感じられたら少々毒耐性のある俺は美味しい毒のある食べ物が食べ放題になる。

だが、デメリットもあるんだ。


「舌治っちゃったら毒草食べれなくなっちゃう」


そう、これだ。

別に食べれない訳では無いだろうが、少なくともそこら辺の雑草が美味しいとは思えない。


「…………なにそれ、そんなの食べなくていいじゃん!」

「…………ちょっと見て」


俺は自分の腕をリリンに見せた。


「あれ、ちょっと細くなってる?」

「…………うん」


…………本当に気づくとは思わなかったが、正解だ。

ご飯を食べてから時間が経つにつれ、俺の体が少しづつ動きにくくなっていくのを感じていた。

恐らく、この体は驚く程に吸収が早い代わりに驚く程にその消費も早いのだろう。

だから体を構成する肉がすぐつき、また、すぐ消費されて無くなっているのだろう。

そういう事なのだから俺はできる限り何かを食べ続けないといけないのだ。

俺はそのことをリリンに包み隠さず伝えた。


「そ、そんな…………そんなのってあんまりだよ」

「私はそこまで食べる事は好きじゃないから、大丈夫」

「だ、だけど!」

「もういいから、早くリリンのご飯を探そ?」


俺はリリンのお腹をちょんちょんと指さす。

先程から何回も何回も可愛らしい音がなり続けているのだ、放置なんでできるはずがない。


「う、うぅー! からかわないでよ!」

「ふふ、リリンは可愛いね」

「っ!? わ、分かったから! ほ、本当にいいの?」

「うん、私はそこら辺の草とか食べてるから気にしないで食べれそうなやつはリリンに渡すね」

「分かった……ありがと!」


どうやら納得してくれたようだ。

現に今の俺の欲求はあっても睡眠欲くらいだ。

だが、それも体が欲している訳ではなく、心が欲している様なものなので別にそこまで耐えられない訳では無いのだ。

欲というのは生者の特権なのだろうな。

あくまで俺は死者という訳だ。






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