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21話 街へ


昨日と同じようなルーティーンで俺たちはあの街を目指した。

さて、そこで驚くべきことが起こった。


体が動かしやすかったのだ!


腕などを見てみると昨日よりも状態が良いように見える。

やはりこれは昨日あの草を食べた事による物なのだろう。

この体による特殊能力かなにかなのかもしれない。

食べれば食べるだけどんどんと体が強くなっていくというものなのかなと一瞬思ったが、リリンが言うにはアンデッドという存在はそこまで強いものは居ないらしい。

なので、ある程度までいったら打ち止めなのだろう。

ただ、魔物には進化というものもあるらしいというのを道中でリリンから教えてもらった。

何とかそれを達成することが出来ればさらに強くなることが出来るかもしれない。

別に戦いたいとかそういうのは一切ないし、なんなら出来る限り戦ったりはしたくないが、自衛のためにもある程度の力は持っておいても良いとは思う。

ただ単にリリンが知らないだけかもしれないが、進化の条件などは特に分かっているわけでは無いので、ここは手探り手探りやっていくしか無さそうだ。


ここまでは全然良いのだが、道中一つだけ困ったことがあった。

昨日とは違い今日はリリンがピッタリとくっついて離れてくれないのだ。

昨日の夜と今日の朝のこともあって出会って間もないとは言え中々に仲を深める事が出来たとは思っている。

しかし、それにしても少し距離が近すぎる気がする。

…………今まで辛かったんだろうし別に拒否することなどは無いが、なんと言っても歩きにくいのだ。

先程体が動かしやすくなったと言っただろう。

それによって確かに歩きやすくはなったが、こんなにもベッタリとくっつかれてしまってはそれを帳消しするほどに歩きにくい。

昨日は体が動かしにくかったから街に着くまでに少し時間がかかっていたが、今回はリリンがくっついているため時間がかかってしまいそうだ。


…………まぁ、良いけどね。


前回と同じようにリリンにリードしてもらいながら街へと向かった。


やや経って、街まであと少しとなったその時、リリンが突然足を止めた。


「ん? どうしたの?」


俺はリリンの様子を伺った。

リリンはただ黙って目を閉じ、鼻をクンクンしている。


「…………変な匂いがする気がする」

「変な匂い?」

「うん…………なんて言うか、焦げ臭い匂い?」

「焦げ臭い………ね」


なんだか不穏だな。

山火事とかかもしれないが、場所的にも街で何かが起こったとしか思えない。

何が起こったのかは分からないが、このまま街へ行くと良くない気がする。


「リリン、一旦帰った方がいい」

「えっ、け、けど…………」

「危険でしょ?」

「そ、そうだけど…………」


リリンは優しいからネロなどの心配でもしているのだろう。

言っちゃあれだが、そいつらはリリンを差別している連中なんだ、そいつらを何故リリンが心配しなきゃいけないんだ?

どう考えてもそんな道理は無いはずだ。


「リリン、私はリリンが心配、お願いだから言うこと聞いて」


リリンの目を見つめ直し、真剣な眼差しでそう言い聞かせると、少し顔を赤らめながら嬉しそうな様子で分かったと返事をくれた。


「えへへ、ネムちゃんがそんなに心配してくれてるのに断るなんてできないよ…………」


そうニヤニヤしながら言うリリンの頭の上には先程までは隠れていたはずのケモ耳がぴょこんと飛び出ている。

ううむ、これってもしかしてそこまで意識していなかったら嬉しい事が起こった時とかに立っちゃうものなのだろうか?


「…………えいっ」


俺はもう我慢ができなかった。

風に揺られてふわふわと動くその2つのお耳を目の前にしてこれ以上何もしないなんてことは出来なかったのだ。


 指先が触れた瞬間、リリンの耳がぴくんと跳ねる。


「ひゃっ……!?」


リリンの口から漏れたのは、驚いたのか少し変な声が漏れ出る。

リリンの頬がじわじわと赤く染まっていくのが分かる。


「ちょ、ちょっと! な、何してるの……!?」


 リリンは俺の手を振り払うようなことはしなかったが、恥ずかしそうにしながらどうすればいいのか分からないといった仕草で、じたばたと体を揺らしていた。


「ごめん、我慢できなかった」


俺は素直に答えつつ、もう一度そっと指を這わせる。ふわふわとした毛並みが、驚くほど柔らかい。

触れれば触れるほど手放したくなくなる感触だった。


「あぅ、ちょ、ちょっと恥ずかしい……」


リリンの声がどんどん小さくなっていく。

耳だけでなく、首元まで赤くなっているのが分かる。

可愛い。

まぁ、悪戯はこれくらいにしてあげよう、リリンは俺の言うことを素直に聞いてくれているのだ、これ以上は悪い。

そう思い、このまま触り続けようとする手を必死に制御して離すと、リリンはその手を名残惜しげに見つめている。

ふむ、これはこれは…………。


…………もう一度耳をなでなでしてみた。

リリンはとても満足気だ!


「…………」

「…………」


ふむふむ、なるほど、そういう事か。


俺は再度こう思った。


可愛い、と。

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