2話 銀髪の幼女
何が起こったのか。
そう考えるよりも先に体全体が今まで感じたことの無い感覚に包まれる。
いや、違う、俺はこの感覚を知っている。
というかなんならついさっき感じた感覚だ。
なにか声を出そうとするも口からは少しの空気すらも漏れでない。
周りを見渡そうとするも俺の視界は暗闇のままだ。
手探りで周りを確認しようとするも体はピクリとも動かない。
そう、この感覚は…………死。
頭もどんどんと回らなくなってくる。
あー、せっかく新しい1歩を踏み出したはずなのに俺は死ぬのか。
まぁ、あの会社から抜け出せたんだ、それでもういいかな。
俺は自然に身を任せ、来るべき時を待ちそして、意識を失った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
目が覚めた。
ムクリと起き上がる。
なにかサラサラとした白いものが顔を覆い隠し周りを見ることを阻害する。
それをサッと避け周りを確認する。
周りは苔むした廃屋の内部の様な所だった。
「………あ………あぅあ………。」
"あれ、おれは死んだはずじゃ?"と言おうとした。
が、それは言葉にはならず虚空に消える。
声が……出ている、さっきまでは一切出なかったのに。
それに、体も動く…………感覚は無いけれど。
不思議に思って俺は自分の手を見つめた。
ガリガリに痩せ細った小さな手だ。
…………あきらかに俺の手じゃない。
「……ぅ?」
あまりに意味がわからない状況に衝撃を受け、思わず頬をつねり、自分が現実にいるのか確認する。
痛く……ない。
……あぁ、これは夢なのか。
俺はもう一度寝転がり、目を閉じ、ゴロゴロとする。
このまま一眠りしてダラダラしよう、夢なんだから何やっても許されるだろう。
そんな所で俺は思った。
どこまでが夢だったのか、と。
普通に考えて幻聴と話すなんておかしなことが起こるはずがないから、恐らくそのくらいの時からもう夢の中だったのだろう。
それにしてもやけに生々しい夢だ。
あの時……恐らく足を踏み出した瞬間に転びでもして顔面を強打したのだろう。
その時の痛みを……死の感覚を鮮明に覚えている、そしてその感覚はさっきも…………。
おかしくないか?
俺はハッとして再び起き上がった。
俺は今自分の頬をつねって痛くなかったから今の状況が夢だと思った。
だが、さっきまで痛みは感じていたし、なんなら死んだ。
そうなると痛みを感じ無いから夢というのもおかしくなる。
だが、そうなると今の俺の体がおかしいという事の説明が付かない。
一体何が起こって…………。
俺は何か自分の姿を移せるものがないかどうか探そうと思い勢い良く立ち上がった。
「あぅっ………。」
次の瞬間、俺は地面の苔と熱烈なキスをした。
………またか。
さっきはタイルで今度は苔。
俺はどれだけ転べば気が済むのだろうか。
転んだ原因を探ろうと足元を見るとそこにはガリガリに痩せ細った小さな足が見えた。
筋肉がついている様子は微塵も無く、これで体を支えるには些か不安が残るレベルの細さだ。
やはりあきらかに俺の足じゃない。
その足を無理やり動かして何とか立ち上がる。
足は俺の体の体重を支えきれていないのか常にぷるぷると小さく振動している。
それでも何とか足を動かして前へ進む。
その度に目の前で白い何かがひらひらと揺れ動いている。
………これは、髪の毛か?
やはりこれも俺のものじゃない。
真相を確かめるために廃屋の中を奥へ奥へと進んでいく。
どうやらここは昔相当立派な洋館かなにかだったのか、長い廊下や大きな階段などが目に付く。
そして、その奥でなにかきらりと光るものを発見する。
俺はそこへ向かってゆっくりと進んでいく。
「………ぁ」
鏡だ。
少し近づくと周りの光を受けキラキラと輝く1枚の鏡があることを発見する。
壁伝いにその地点へと足を進め、転びそうになりながらも何とか辿り着く。
震える手でその鏡を取り、こちら側に向け、体を移す。
そこまで大きい鏡には見えない、あっても1mほどだろう。
その上鏡の表面はバキバキに割れてしまっている。
それでもなお、俺の体はその鏡にすっぽりと映り込み、その姿を見せた。
「…………」
手を上げたり、足を動かしたりしてこれが本当に自分の体なのか確認してみる。
………鏡の中の自分は俺と全く同じ動きをしている。
俺は何が起こっているのか分からずその場にへたりこんだ。
そこに映っていたのは紛れもない。
銀髪の幼女…………
の死体だった。