18話 エリクサー
「えっと、リリン、レインを治す手立てとかはあるの?」
とりあえず俺は当たり障りのない質問をした。
リリンは少しうぅんと唸り考えていた。
「無いことは無い……かな」
リリンは絞り出すようにそう言った。
無いことは無い、つまりはあると言うことだ。
だが、それにしてはリリンの反応は少し沈んだものだった。
「……もしかして、結構難しい?」
「うん、とっても」
リリンは悲しそうにそう言った。
胸が締め付けられる。
この子くらいの子ならもっとやりたいこともあるだろう。
もっと遊びたいだろうし、美味しいものも食べたいだろう。
だが、それも全て捨ててレインを助けようとしている。
…………はぁ、もう、どんどんと寝にくくなるじゃないか。
睡眠薬とかを使うのはそこまでもう難しくないだろう。
多分リリンは薬師らしいし、そのくらい作れるだろう。
だが、もう、こんなことを聞いてそんなこと言ってられない。
「分かった、手伝う」
俺は気がつくとそんなことを口走っていた。
働きたくは無い。
働きたくは無いが、これは無理だ。
…………できる所までやってみよう。
俺がいるだけでも多少は違うはずだ。
それでできるだけ手伝って、やれる事をやってもなお無理ならば……最終手段もない訳では無いだろう。
少なくともひとつは思いつく。
リリンは俺のその言葉を聞いてその顔にぱぁっと花を咲かせた。
「ほんと!? ありがとう!」
そう言って俺に抱きついてくる。
その仕草は何とも子供っぽくて、今この子がやろうとしていること、そして今までやってきたことと重ね合わせてさらに心苦しくなる。
「それで、何をすればいい?」
「あ、さっき言ってた手立てってやつ? んー、一応ね、2つ考えてはいるんだよね!」
「そうなんだ」
「うん、けどどっちも難しくて…………」
リリンはそこからその内容を詳しく話してくれた。
まず1つ目はエリクサーというものを入手するという方法だった。
エリクサーは古くから最上位の回復薬として知られており、それを使えばありとあらゆる怪我や病気が治るらしい。
だが、その入手は困難を極めるらしい。
まず、市場では滅多に手に入らないらしい。
それも、エリクサーを作れるのは本当にごく一部の凄腕の薬師のみらしく、さらにその材料もかなり特殊なものらしく、そのどちらもがある状態でないと出回らないらしい。
しかも、出回ったとしてもエリクサーは非常に高価なため、買うというのは現実的ではないそうだ。
この説明を聞くと、この案はほぼ没なのだろうと考えていたが、実はそうでは無いらしい。
なんと、リリンはエリクサーを自分で作ろうとしているらしい。
そのためにここで薬を作る練習を続け、更にそれでお金を稼いでその他の材料を集めようとしているらしい。
エリクサーを作れるようになるのはまだまだ先だろうが、それでもこのやり方ならいつか出来るかもしれないという事で、それをするためにここに来てから数年間、この生活を続けているらしい。
続いて、2つ目、こっちの方が非現実的らしく、リリンが諦めた方の案だ。
それは、聖女と言われる存在に治してもらうことらしい。
聖女という単語を俺は知らなかったが、それについてもリリンが教えてくれた。
聖女は人族の中で一世代に1人のみ産まれる生まれつき回復魔法というものを使える人間なのだという。
魔法…………やはりファンタジーだなぁ、と思いながらもそこに関してはスルーして説明を聞き続ける。
聖女の回復魔法は他の人のそれとは違い、あらゆるものを治す、そう、エリクサーと同じだけの効果を持っているらしい。
だからこそ、聖女を何とかしてここに呼び、レインを治してもらえればよいのだ。
だが、それは絶対的に不可能らしい。
なぜなら聖女は聖なる源に限りなく近い場所にある人族の王の城に居るらしく、リリンがそこまで行くのは不可能らしい。
まぁ、そんな城と言う所に入れないのは普通だろう。
だが、俺は一応その案は本当に無理なのか、確かめたかった。
「リリン、それってさ、聖女に頼めるような人と仲良くなったりしてその人に頼んでもらったりすれば行けたりしないかな?」
これもハードルが高いというのはわかっている。
しかし、エリクサーを作るハードルも考えれば、こっちの案を試してみるのも悪くないんじゃないかと思ったのだ。
その案をリリンに伝えると、リリンは少し悲しそうな顔をしながら首を横に振った。
「ううん、僕はどうやってもあっちの方にはいけないんだよ」
「何故?」
どうやってもいけない、というのはどういうことだろうか。
レインの世話をする人がいないというのなら俺がいる。
長い旅路にはなるだろうが、絶対に不可能という訳では無いだろう。
だから、俺はリリンを問い詰めた。
何かあるならそれを言ってくれなくては助けられないからだ。
そうしていると、リリンの様子はどんどんとおかしくなっていった。
呼吸が荒くなり、尋常じゃないくらいの汗をかきだきている。
流石になにかおかしいと思った俺は話を中断してリリンのもとにかけよった。
「ごめん、大丈夫」
「……う、うん」
リリンは力無くそう呟いた。




