16話 朝
リリンは落ち着いて直ぐに眠りについた。
さっき会った魔物の話をしたかったのだが仕方がない。
もう少しで夜が明けそうな程の時間だが、夜に起こしてしまったのだし、もう少し眠らせてあげよう。
さて、これで俺は身動きが取れなくなったわけだ。
なんとも幸せな拘束ではあるが、それでもさっきやろうと思っていたことは出来なくなってしまったわけだ。
まぁ、とりあえずある程度の草は食ったわけだし、多少は効果があるかもしれない。
リリンの拘束をほんの少しだけ解き、自分の腕を見ようとする。
「んぅ……」
やべやべ、また起こしてしまうところだった。
俺を腕の中に入れ幸せそうに眠っている少女は未だすやすやと眠っていた。
その姿はさながら姫のようにも見えた。
さっきよりも細心の注意を払いながらゆっくりと自分の手を眺めてみる。
うむ、確かに多少ふっくらとしているようなしていないような……。
これで少しでも力が出てくれるのならいいんだけどな。
少し上に持ち上げていた腕の力を完全に抜き、それと同様に全身の力も抜き、体をリリンに預ける。
寝ることは出来ないけど、これはこれで幸せだ。
それに、あの魔物がまた近づいてきたら危険だし、今はさすがに警戒を続けようと思うから、その点だけを見れば寝れないというのも利点へと変容する。
そのまま外でなにか物音がしないかどうか細心の注意を払いながら世が明けていった。
朝日が入り込み、部屋中が明るくなっていくのを感じる。
「んっ、んん…………お、はよぉ」
「うん、おはよう」
俺に抱きついたままの状態であった。
そしてそれはしばらくしても同様にその状態が続いていた。
「ねぇ、薬草畑行かなくていいの?」
「……いくよ」
「そっか、じゃ、まずご飯食べよ?」
「うん、いく!」
俺がそう言うと案外すんなりとリリンは俺から離れてくれた。
「……昨日はごめんね、わがまま言っちゃって」
「ん、いいよ、私も勝手に出ていってごめん」
うん、やっぱりリリンは謝れるいい子だ。
ただ、今回の件は俺の考え無しの行動が招いたことだ、リリンに非は無い。
申し訳なくなって俺はごめんねと言いながら頭をなでなでしてあげる。
そうするとリリンは本当に幸せそうに微笑んでくれた。
少し経って、朝の準備をした後、昨日貰った紙袋から残していたパンを取り出し、昨日と同じように食べていた。
俺も少しのパンを貰い、リリンと一緒にそれを食べる。
ふと食べている途中に俺の体のことについて質問してみた。
「……そういえばさ、リリン、私の体、なんか肉付きが良くなったと思うんだけど、気のせいかな?」
「んー? あ、ほんとだね、ご飯食べたからかなぁ?」
「そうかもしれないけど、ご飯食べてすぐにこんなに体に出るもの? アンデッドってそういうものなの?」
「んー、わかんない」
「……そっか」
まぁ、分からないならしょうがない、俺よりは確実にこの世界のことについて熟知しているとはいえ、リリンがなんでも知っている訳では無いのだ。
まぁ、そういった事はのちのち調べるとして、俺は本題に入ることにした。
「それで、昨日の事だけど…………」
俺は昨日外に出た理由と何をしたか、そして、あの異様に巨大な白銀の狼の様な、恐らく魔物と言われる存在にあったということをリリンに事細かく話した。
前半の部分についてはリリンにもっと私を頼ってと説教を受けた。
しかし、後半の部分についてはリリンも不思議そうにしていた。
「んー、私は見た事ないかも、その狼の魔物。昨日も言ったかもだけど、ここら辺は邪なる源からも結構離れているところだからそこまで強い魔物は出ないはずなんだよね、出たとしてもラットくらい」
「うん、それは私も会ったことある」
「うーん、そんな魔物が出たところなんて見たことも無いなー」
そう言ってリリンは不思議そうに目を細めた。
「じゃあさ、今日は薬売りに行くの辞めようよ」
ネロに騙されている可能性があるためできるだけ会わせたくないのもあるが、あんなのが外にいるというのは明らかに危なすぎる。
リリンにはそこまで危険な目にはあって欲しくないから、こんな状況では無闇に外に出て欲しくない。
そう思い俺はリリンにそんな提案をした。
しかし、リリンはそれを断る。
「だめだよ、僕はやらなきゃいけない事があるんだもん」
「…………」
やらなきゃいけないこと。
ネロの所でもリリンはそう言っていた。
リリンの瞳を見つめる。
それは昨日の涙の溜まった瞳とは大きく違う、その年齢にしては違和感を感じるほどに覚悟の決まった瞳であった。
「ねぇ、リリン、リリンのやらなきゃいけないことってなに? そんなに重要な事なの?」
「もちろん」
俺の問いにリリンは即答した。
「……分かった、じゃあ、私も協力したい。だから、そのやらなきゃいけないことってのを教えて欲しい」
これはリリンを助ける上でも重要になってくる事柄だろう。
ただ、ネロから解放するだけでは意味が無いのだ。
「ネムちゃん……分かった、じゃあこっち来て」
そう言ってリリンは俺の手を引いた。




