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15話 白銀の狼


俺はゆっくりと振り返った。


視線の先には……白銀の毛並みを持つ巨大な獣がいた。

それは狼に似た姿をしていたが、普通の狼とは明らかに違う。

俺が知っている狼という存在を数倍大きくした大きさがあった


息を呑む。

足が動かない。

圧倒的なまでの恐怖に身を包まれ、体が硬直し、一切動くことが出来ない。

しかし、獣は俺の存在をまるで気にも留めていないようだった。

警戒の気配も、敵意の欠片もない。

まるで、俺など初めから見えていないかのように。

やがて、狼はゆっくりと歩き出した。

俺のすぐ横を通り過ぎる。

その瞬間、圧倒的な威圧感が体を貫く。

捕食者の気配を纏いながらも、俺を狩るつもりは一切ない、そんな様子が伝わってくる。

それが逆に不気味だった。


「…………」


俺はただ、動けずにその場に立ち尽くしていた。

狼は、そのまま夜の闇へと消えていった。

威圧感が解け、体に自由が戻っても背筋に感じるひんやりとした感覚は未だ残り続けている。

こわばっていた体はその反動でへなへなと地面へと向かう。


なんなんだよあの化け物は、あれがリリンのいう魔物ってやつなのか?

リリンは魔物は凶暴と言っていたが、今見たところ俺に襲いかかってくる様子も無かった。

もしかして俺が彼らと同じ魔物だからなのだろうか?

ただ、それにしてもあのレベルがゴロゴロいるとなると危険すぎる。

リリンが一緒だったらもしかしたらリリンが襲われていたのかもしれない……。


…………そうだ、こんな奴がいるならリリンの身が危ないんじゃないか?

それに気がついた瞬間、俺は踵を返して走り始めた。

こんな事をやっている場合じゃない、リリンのためを思ってやっていた事が逆にリリンを危険に晒してしまうことになるなんてあってはいけない。

こんな体だからスピードなんて出るはずもなく、よたよたと走ることしか出来ないが、それでも俺は全速力で走る。

やがて俺の目にあの廃屋が入ってくる。

他の建物よりも豪華で大きな建物なので見つけるのは容易く、特に迷ったりせずに一直線に向かうことが出来た。


廃屋の前に着くとそこには……リリンが居た。


「リリン……なんで」


俺がその後の言葉を続けようとしたその時、視点が空へと向く。

そして、視界がリリンの泣き顔で埋まる。


「ネムちゃん……どこ行ってたの! 心配したよ……。」

「あ、ごめん……」


リリンの声は震えていた。

そうか、リリンは俺の事を心配して外に出ていたのか。

リリンは俺の事を抱き締め、すすり泣き続けていた。


「ごめんね、とりあえず家入ろ?」

「やだ、もう動かないもん」


リリンは少しえずきながらもそう言って俺から少したりとも動こうとしない。


「リリン、さっき魔物にあったの、ここは危険だからさ、入ろ?」

「…………魔物?」

「え、うん」

「ここら辺には魔物なんて滅多に出ないし、出たとしてもラットくらいだから大丈夫だよ、あの赤い目をしたネズミでしょ?」


……あのネズミ魔物だったんか、通りで凶暴だと思った。

って違う違う、ここら辺に魔物なんて滅多に出ないだって?

それはおかしい、現に俺は白い大きな狼を見たわけで……え、まさかあれで魔物じゃなくて普通の動物とか言う訳じゃないよな!?

…………異世界だし有り得るのか?

ただ、魔物だった場合、異常事態が発生しているという事だ、危険極まりない。


「リリン、そのラットとかいうやつじゃなくて、もっと大きなやつが出たの、本当に危険だから……お願い、家に入ろ?」

「ぐすっ……嘘じゃない…みたいだね、分かった」


リリンはそう言って俺と一緒に立ち上がる。

なお、リリンが離れる様子は一切ない。

俺は諦めてリリンに抱きつかれながら歩き、廃屋の中のベットの所まで歩いた。


「…………」

「リリン?」

「……なに」

「怒ってる?」

「怒ってる」


ぬーん。

これはこれは、ぷんぷんしちゃって可愛いわね(?)

まぁ、いきなり居なくなってたら心配になるのもわかるし、それに関しては全面的に俺が悪いと思っている。

だが、たかがほんの少しだけ話しただけのやつに泣くほど心配するか?

そこが少し疑問だった。


「リリン、私とリリンはそんなに長い時間一緒に居たわけじゃ無いのになんでそんなに心配してくれるの?」

「…………ネムちゃんは覚えてないだろうけど、僕たちはずっと前から3人で居たんだよ? ネムちゃんは眠ってたけど、その間も僕はネムちゃんと一緒に居たの。だから起きた時にはすっごい嬉しかったし、絶対に離れたくないって思ったの」

「…………」


そうか、リリンはずっと前からここに居た。

そして、俺もずっと前からここで眠っていたのか死んでいたのかは分からないが、この廃屋に存在していた。

だからリリンは俺の事を一方的ながらもずっと知っていたという事か。

少し疑問は残るが、とりあえずは納得した。

今までは動かなかったから居なくなるなんてことは無かったが、今は動けるようになって初めて俺が居なくなったからこの廃屋に1人きりになった気分になったのだろう。


「…………もう、どこにも行かないで」

「…………分かった」


リリンは腰あたりに抱きついているため、上から目線になっており、そのおねがいの破壊力は甚大であった。

俺は1発で陥落したのである。

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